連邦法、州法、地方条例の交錯 ~相反する各法の優位性~
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Jweekly 発行日:
移民法、家族法、規制物質法(薬物取締法)、労働法など、連邦法と州法の相反の例は、多岐に亘る。具体的には、トランプ政権の不法移民取締り強化に対し、カリフォルニア州上院議会による不法移民保護法案(Sanctuary State Bill)の可決、また同性婚の合憲性を認める米最高裁の判決に対し、同性婚禁止法を未だに維持する州、更に大麻の所持使用を違法とする連邦規制物質法に対し、28州とワシントンD.C. による合法化など、連邦政府と州政府の確執が常に紙面を賑わしている。これは、日本と違い、米国が、立法権を連邦と州の両方の議会に委任し、司法権を連邦裁判所と州裁判所に分ける複雑な法制度を採用しているためである。では、これらの交錯する法制度において、米国の事業主はどのように対処すればよいのであろうか?
<合衆国憲法下の定義>
1787年に起草されたアメリカ合衆国憲法は、世界で最も古い現行の成文憲法として名高い。同憲法は、統一国家に必要な制度として立法部、執行部、司法部の規定や州との関係について明記している。第1条によると、立法部である連邦議会は、租税、関税、国外通商、帰化、破産、貨幣鋳造、合衆国証券、郵便、著作権、連邦裁判所規則、公海上の犯罪、戦争、軍隊などを含む分野における立法権を有するとある。
但し、修正第10条では「この憲法が合衆国に委任していない権限または州に対して禁止していない権限は、各々の州または国民に留保される。」と明記している。
つまり、国家として係わる問題や複数の州間の問題については、連邦法が適用され、ある州内の問題については、州法が適用されることになる。しかし、多くの場合この適用範囲が明確ではない。
更に、第6条の最高法規条項には、「この憲法と、これに準拠して制定される合衆国の法律、および合衆国の権限をもって、すでに締結され、また将来締結されるすべての条約は、国の最高の法規である。これによって各州の裁判官は、各州憲法、または州法の中に相反するいかなる制定法がある場合でも、これに拘束される。」と明記されている。
これを読む限りでは、連邦法と州法が相反する場合、常に連邦法の優位性が保証されているように解釈できそうだが、必ずしもそうではない。
<交錯する連邦法と州法>
多くの場合、同じ問題について連邦と州の両方で法令が存在する。例えば、労働法は、連邦法と州法が存在しており、更に一部の市やカウンティでも条例を制定している場合がある。特に最低賃金規定について考察すると、2017年4月現在で、連邦労働法では一時間につき$7.25としているが、カリフォルニア州労働法では、従業員25人以下の職場では、$10となっており、26人以上の職場では、$10.50となっている。更にサンフランシスコ市の条例では、現在、$13としているが、2017年7月1日より$14に上がる予定である。連邦法では、連邦法下の最低賃金を満たしてさえいれば問題なく、それ以上の最低賃金を各州や市が設定することを禁止していない。従って、例え連邦法の規定を守っていても、常に事業を行っている地元の法律や条令を遵守する事が重要である。
<制定法とコモンロー>
連邦や州の各種法律や行政規則に相反する規定があり、これが関係当事者の利害に発展すると、最終的には法廷で解決されなければならない。その場合、慣習法(コモンロー)に見られる法的原則に従い、裁判所が判例に基づいた司法判断を行うことになる。
<考察>
相反する連邦法と州法のいずれが優先されるかは、各事象により法的分析が異なるため、常に専門家と確認しながら、判断を行うことが重要である。
参考文献
米国大使館「アメリカ合衆国憲法(翻訳)」
米国大使館「アメリカ合衆国憲法 修正条項(翻訳)」
米国大使館レファレンス資料室「米国司法制度の概説」
本記事の内容は、一般的事実を述べているだけであり、特定の状況に対する法的アドバイスではなく、それを意図したものでもない。個々の状況に対しての法的アドバイスは、直接当事務所にご連絡頂くか、専門の弁護士にご相談されることをお勧めする。
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