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~Independent Contractorか、Employeeか~

アメリカで事業を行うに当たり、従業員(Employee)の代わりに独立請負人(Independent Contractor/IC)を雇用する事は、労災、残業代、健康保険、有給、そして事業税を始めとする面倒な手続きや費用から経営者を開放してくれる魔法の杖のように思われるが、実はこの杖は取扱要注意である。ICのつもりで雇用した人間が、後日労働局や裁判所によって従業員であると看做された際には、経営者は大変高い代償を払うことになりかねないのだ。

<厳しさを増す法環境>

IRSは、従業員とICの区別を次の様に規定している。

1) Behavioral Control:従業員である可能性は、職務内容に関する経営者のコントロールの度合に比例する

2) Financial Control:従業員である可能性は、経済的側面に関する経営者のコントロールの度合に比例する

3) Type of Relationship:労働者と経営者がどのような関係・立場にあるか

具体的には、仕事で使う備品や器具を誰が揃えているか、仕事内容だけでなく仕事時間や方法が規定されているか、任意の辞職が可能か、被雇用者は複数の雇い主と同時に働いているか、等が問われるのだが、実際の運営上に於いてはグレーゾーンが多く、相当数の労働者がmisclassify(誤分類)されているのが現状のようだ。米国労働省による調査では、監査した雇用主の内の10~30%が、誤分類をしていたという結果が出ている。これに起因する税収のロスも莫大である為、各州の法的規制も年々厳しさを増している。例えばカリフォルニア州では、2012年1月1日から、故意の誤分類に対して各違反毎に5千ドルから  2万5千ドルの罰金が課される法律が発効した。コネチカット州は2008年に、労働者誤分類を摘発・防止する専門機関「Joint Enforcement Commission on Employee Misclassification」を設立した。連邦レベルでは、誤分類による給与税源泉徴収分の未払に対し、未払分の支払いに加え、各誤分類労働者毎に5千ドル、労働者の連邦所得税該当分の1.5%、源泉徴収されるべきだった金額の20%が罰金として課される。

法的環境に加え、労働者そのものが誤分類がらみで経営者を訴えるケースも少なくない。以下に判例を見ていこう。

<過去の判例①:事業税>

2010年、事業税を支払っていなかったとしてニュージャージー州から訴えられていた、メリーランド州のTelebright Corporationが、上告を退けられ、過去6年間の事業税と滞納額の27.5%(約2万5千ドル)の罰金の支払いを命じられた。2004年よりニュージャージー州の自宅からテレコミュニケーションにより仕事を行っていたICが、Telebright社の従業員である、と看做された為である(ちなみにこの人物は、ニュージャージー州に引っ越すまでは、2001年から2004年までの3年間、Telebright社の従業員であった。また、Telebright社は、この被雇用者の源泉徴収は行っていた)。判決の鍵は、この労働者がフルタイム勤務で、Telebright社だけの仕事しかしていなかった事と、この労働者の「上司」にあたる人物が、やはり他州のIC という形であるにせよTelebright 社内におり、タイムシートによる勤務報告が毎日行われていた事であった。

<過去の判例②:福利厚生>

2000年に決着を見たVizcaino v. Microsoft Corpのケースでは、フリーランス(いわゆるIC)契約で雇用された複数の労働者が、従業員のみに受給資格のある福利厚生(ストックオプションプランを含む)を巡ってマイクロソフト社と争った。結果、裁判所により彼らは実質上の従業員であったと判断され、マイクロソフト社は過去数年間の福利厚生分を含む$96.9ミリオンを支払うこととなった。

<過去の判例③:労災>

さて、雇用した人間が職務中に怪我をした場合、通常のGeneral liabilityの保険ではICはカバーされるが、従業員はカバーされない。従業員をカバーするのは唯一労災保険のみである。2011年のRodriguez v E.D. Construction 裁判では、この労災の適用が問われ、敗訴した建設会社のE.D. Construction社は、勤務中に怪我をしたICが、労災委員会によって従業員とみなされた結果、医療費のみならず、誤分類による罰金の支払いにも追われる羽目に陥った。

<望ましい対応>

目的に応じてICと従業員を正しく使い分けるのが必須であることがお分かりいただけただろうか。IRS(米国税局)のEmployer Worker Misclassification Program(自発的再分類プログラム)を利用すれば、少なくとも監査による摘発や、労働者からの訴訟による痛手は防げる。アメリカの経営者が持つべきは、魔法の杖ではなく、転ばぬ先の杖であろう。

本記事の内容は、一般的事実を述べているだけであり、特定の状況に対する法的アドバイスではなく、それを意図したものでもない。個々の状況に対しての法的アドバイスは、直接当事務所にご連絡頂くか、専門の弁護士にご相談されることをお勧めする。

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