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~誇大広告の基準~

アメリカで言うところの「save(節約)」が、「お金を使わずに貯金する」ではなくて「できるだけお得な買い物をする」という意味なのはよく知られた事実だ。「お得感」が売上げを左右することを売り手も心得ており、ショッピングサイトや折込広告には、「Save XX%」「Save Extra XX dollars」といった文言が、しばしば実際の価格よりもはるかに大きな文字で並ぶ。

さて2014年2月、カリフォルニア州裁判所は大手ショッピングサイトを運営するOverstock.com社に対し、同社サイトに、販売価格の比較対象として表示されている参考価格は根拠がなく不適切で、いたずらにお得感を煽って購買者を欺くものであるとし、原告の地方検事が代表する8つのカウンティへ合計680万ドル(約6億8000万円)の罰金を支払う事を命じた。

<Overstock.com社の概要>

1999年創業のOverstock.com社は、当初は廃業した他ショッピングサイトの商品を卸価格以下で販売していたが、やがて新品も扱うようになり、急激に売り上げを伸ばして2002年には株式上場。2013年度の総売上は13億ドル、純利益は8850万ドルを計上し、家具、電気製品、被服、宝飾品等を幅広く取扱う総合ショッピングサイトへと急成長を遂げた。現時点で従業員約1500人を擁する。

同社サイトのデザインは、写真を中心に実際の販売価格、そしてその横にAPR(広告参照価格)を配し、更にその隣には「you save $OO」と、販売価格との価格差を強調するフレーズが添えられている。ディスカウントを売りものとするサイトでは、多かれ少なかれ同様の構成になっているのだが、今回の訴訟ではこのデザインも、消費者の誤解を誘発する紛らわしい問題点の一つとして取り上げられた。

<地方検事による起訴から判決までの流れ>

2010年にアラメダ、マリン、モントレー、ナパ、サンタクララ、サンタクルーズ、シャスタ、ソノマの8カウンティの地方検事が、Overstock.com社を広告法及び公正取引法違反により1500万ドルの損害賠償等求めてで訴え提起した。裁判では、ある消費者の苦情が引き合いに出された。「定価$999のパティオセット(庭用のテーブルと椅子セット)を$449.99でご提供」と謳われていた商品を購入したところ、届いた商品には$247のオリジナルの小売札が付いていた、というのだ。

裁判の結果、カリフォルニア州裁判官のWynee Carvill氏は、Overstock.com社が虚偽広告及び不公平な事業運営を禁止する州法に2006年以降違反している、とした。前述の通り、同社が謳う「参照価格」が同社独自の方法により作成されたもので根拠がないというのがその理由だが、同裁判官は、多額の罰金に加えて差止めも命じた。それにより、Overstock.com社は、虚偽の広告行為を止め、60日以内に法に準拠した形に変更しなければならない。具体的には、同一商品の一般的な市場価格を決定する「善意の努力」を反映する以外には、「この価格と比較してください」として広告参照価格の表示を行なってはならず、似てはいるが同一でない商品の価格を参照価格として使う場合は、消費者にはっきりとわかるように表示すること。「MSRP(希望小売価格)等のマーケティング用語を使用する場合は意味がはっきりとわかるリンクを付け、同時にそれが市場価格でない可能性もある旨を表示すること。また、確認された日付から90日以上同じ参照価格を使用してはならず、また参照価格の根拠(スクリーンショット等)を2年間保管すること、等である。

当該判決はカリフォルニア州における同種訴訟の損害賠償としては最大のものであり、Overstock.com社は控訴を予定しているようだが、インターネットにおける誇大広告、特に比較広告のあり方について一定の基準が示されたものと言えよう。

<過去の誇大広告判例>

2009年にはダノンが自社ヨーグルトに関する健康上の利益に関して、また2012年にはヒュンダイ・キアが燃費表示に関して誇大広告を行なったことにより、差止め命令を出されたのは記憶に新しい。不況でただでさえ消費者の財布の紐が固い中、小売業界で生き残っていくのは決して楽なことではない。また、米国の企業が広告費にかける割合は世界一と言われており、言語や文化の多様さがそれに追い討ちをかける。しかしながら、誇大広告は消費者に不誠実であるのみならず大きな代償を伴う可能性もあり、事業主としては常に注意が必要だ。

本記事の内容は、一般的事実を述べているだけであり、特定の状況に対する法的アドバイスではなく、それを意図したものでもない。個々の状況に対しての法的アドバイスは、直接当事務所にご連絡頂くか、専門の弁護士にご相談されることをお勧めする。

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