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~インターネットを介したテレビ放送の提供は著作権違反か~

2014年6月25日、連邦最高裁判所は、インターネットを介してテレビ放送をストリーミング配信及び録画サービスが著作権法に違反するかが争われた事件(American Broadcasting Cos., Inc. v. Aereo, Inc., 573 U.S.)で、Aereo. Inc. (以下「Aereo」という)によるストリーミング配信サービスは違法であるとして、下級審裁判所の判断を覆し、事案を控訴審裁判所へ差し戻した。全米で注目を集めた事件であり、9人の判事のうち6人が違法、3人が適法であると判事の間でも判断が分かれた法的にも興味深いものである。

【裁判に至る経緯】

2012年2月にニューヨークを拠点に設立されたIT企業であるAereoは、10セント硬貨程度の大きさの小型アンテナをサービス加入者に貸与することにより、インターネットを通じたテレビ放送の配信及び録画サービス(以下「本サービス」という)を提供していた。

Aereoのデータセンターに加入者ごとに設置された小型アンテナが、テレビ電波を受信し、そのデータは、加入者ごとに割り当てられたサーバー領域に保存される。加入者は、パソコン、スマートテレビ、スマートフォン、タブレットなどを用い、サーバーにアクセスしテレビ番組を、ほぼリアルタイムで視聴・録画することができる。Aereoは、本サービスを提供するにあたり、ケーブルテレビ会社が支払っているような放送使用料を、放送事業者へ支払っていない。

【下級審裁判所における判断】

Aereoがサービスを開始した直後の2012年3月以降、複数の大手放送業者は、Aereoの著作権法違反を根拠に、相次いで、本サービスの仮差止命令を申し立てた。しかし、ニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所及び、第二巡回区連邦控訴裁判所は原告らの請求を認めなかった。

原告らは、Aereoの配信サービスは、原告らが持つコンテンツを公に実演する権利(Public performance right)を侵害していると主張していたが、控訴裁判所は、本サービスが加入者ごとに構成され、加入者のコントロールのもとで、配信及び録画が行われるため、公の実演には当たらないと判断していた。

【連邦最高裁における本判決】

本判決は、Aereoが、公に実演する権利を侵害したか否かについて、(1) Aereoが著作物の「実演」をしたといえるか、(2) 実演は「公衆」になされたか、の2点に分けて判示した。

(1) 実演したといえるか?

本サービスの提供が、米国著作権法上の「実演」に該当するか否かにつき、本判決は、本サービスと、「実演」に該当するケーブルテレビ会社の配信サービスとを比較する手法をとった。すなわち、ケーブルテレビ会社の配信サービスが、常時、加入者に対して配信され続けているのに対し、本サービスは、加入者のコントロールがあって、初めて配信される。この相違が、まさにAereoは単なる装置の供給者にすぎず、本サービスは、「実演」にあたらないというのが、控訴審判決の根拠であった。しかし、本判決は、その相違点は決定的なものではなく、むしろ、他の多くの共通点が存在することからすれば、両者を別意に解釈すべきではないとし、Aereoは単なる装置の供給者に止まらず、本サービスは、加入者の行為とともに、米国著作権法上の「実演」にあたるとした。

(2) 実演は「公衆」になされたか?

Aereoは、加入者は個々に割り当てられた小型アンテナを用いており、それぞれのテレビ放送は、それぞれの加入者にのみ送信されているのであるから、「公衆への」送信にはあたらない旨主張していた。しかしながら、本判決は、ここでもケーブルテレビ会社の配信サービスとの比較を用い、本サービスとの技術的差異は重大なものではなく、両者において、異なる解釈をすべきではないとした。その上で、Aereoが、映像と音声を、不特定多数の加入者に対して伝達している事実を捉え、本サービスは「公衆」になされているとした。

なお、この結論は、一見すると本来の「公衆」という意味から乖離しているが、日本の裁判所も1対1の送受信しかできない機器を用いた配信サービスが問題となった「まねきTV事件」において、同様の結論を採っている(最高裁第3小法廷平成23年1月18日)。

【Aereoのその後】

本サービスは、利用料金が月額8〜12ドルと低額なこともあり、過去3年間、全米10都市以上でサービスを展開し、ユーザー数は約50万人に達していた。しかしながら、25日の本判決を受け一時サービスを中断することを同社ホームページで明らかにした。本判決は、シリコンバレーのIT企業家達を震え上がらせた反面、今後の技術革新が期待される。

本記事の内容は、一般的事実を述べているだけであり、特定の状況に対する法的アドバイスではなく、それを意図したものでもない。個々の状況に対しての法的アドバイスは、直接当事務所にご連絡頂くか、専門の弁護士にご相談されることをお勧めする。

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