News & Events

米連邦最高裁スカリア判事死去 ~オバマ大統領と共和党の新たな確執~

2月13日、米国連邦最高裁の9人の判事の中で最も保守派のアントニン・スカリア判事が、宿泊先のテキサス州のリゾート地で急逝した。享年79歳であった。寒気居座るワシントンDCの冬空には星条旗が半旗に掲げられ、スカリア判事が座っていた赤いマホガニーの最高裁判事席には黒い布が掛けられ、レーガン大統領に指名されて以来30年に亘り、最高裁の保守派知識人として理論を推し進めた老判事に対し弔意が示された。

スカリア判事の逝去によりリベラル派に拮抗する保守派の態勢が危ぶまれる中、空席の判事席を埋める権限とその手続きについての議論が日々熾烈を極めている。米国憲法第二章第二条第二項は「大統領は、・・・最高裁判所の裁判官・・・を指名し、上院の助言と承認を得て、これを任命する」(和訳:在日米国大使館発表)と明確に規定しているように見えるが、リベラル派と保守派、オバマ大統領率いる民主党と米議会を牛耳る共和党との確執が、候補者の指名と上院の承認手続きにおいても繰り広げられている。今月号ではこの最高裁判事指名に関わる政治戦について語ってみよう。

<共和党とオバマ大統領の駆け引き>

スカリア判事の急逝が報じられて数時間内にもかかわらず、上院の多数党院内総務を務めるミッチ・マコーネル上院議員は、大統領選挙を間近に控えていることを理由に、オバマ大統領が誰を指名しようと共和党が多数派を占める上院は「承認手続きを拒否する」と公言しオバマ大統領に対する牽制を開始した。これに追い打ちをかけるように、共和党の大統領予備選で現在二位の支持率を確保するテッド・クルズ上院議員は、判事候補者の選定は「次期大統領選における国民の意思を待つべきだ」と熱弁をふるい、トランプ氏やルビオ上院議員など共和党の他の大統領選予備選候補者も声を高々に指名手続きを「遅延せよ!」とオバマ大統領に要求をつきつけている。更に複雑な事態は、上院司法委員会の委員長を務めるチャールズ・グラスリー上院議員もこれに賛同する意思証明を発表した。というのも上院が承認手続きを行うためには、20人の構成員から成る上院司法委員会が承認手続きを事前に許可する必要があり、共和党が多数派を占める同委員会のグラスリー委員長並びに同委員会のメンバーであるクルズ上院議員が強く反対しているため、民主党やオバマ大統領にとってはハードルが高いプロセスになりそうだ。共和党の執拗なまでの論争に対し、スカリア判事の急逝から3日後にようやく記者会見を開いたオバマ大統領は、300日以上の任期を残すこともあり、「憲法は、現在のような状況における手続きについて明確に記載されている」と主張し、民主主義と法の支配を深く理解する優秀な候補者を指名することを誓った。もし、オバマ大統領が、経験ある中立派の優秀な候補者を指名すれば、共和党としては承認手続きを拒否する正当な理由が無くなることになる。事実、共和党による根強い反対が、政治的な駆け引きのみを目的とした「­議事進行妨害」として国民に否定的に受け取られると「次期総選挙で米議会の多数派を失いかねない」と危惧する共和党議員もいるのは否定できない。

<スカリア判事が大きく関与した判例>

米国市民の生活に大きな影響を与えることになった最高裁判例のうち、スカリア判事の保守的な法的理論が展開されたものを挙げてみよう。

コロンビア特別区 v. ヘラー:2008年最高裁は、5対4の評決によりヘラー氏を支持し、米国憲法修正第2条は武器を所持し合法的に使用するという個人の権利を保障しており、個人が家族を守るために銃を保持することは憲法の保障下にある、従って、それを規制するワシントンDCの銃規制は違憲であると判示した。(スカリア判事による多数派意見)

シティズン・ユナイテッド v. 連邦選挙管理委員会:2010年最高裁は、5対4の評決により、非営利団体を含める法人の選挙活動を制限する連邦法は、これら法人の「言論の自由」を保障する米国憲法修正第1条を違反しているとし、法人による政治献金を容易にしスーパーパックなど膨大な選挙資金を保有する団体を生む結果となった。スカリア判事は「少数派は、個人が他人と共に発言する場合、更に法人という団体として発言する場合には、言論の自由が適用されないという理由を十分与えていない。」と非難した。

オバージフェル  v. ホッジズ:2015年米最高裁は、5対4の評決により同性婚は憲法で保証された権利であると歴史的な判決を下した。スカリア判事は、少数派の意見を代表し「たった9人の判事の意見で国民を従わせるような政治体制は民主主義とは言えない」と怒りを示した。

<考察>

今後の連邦最高裁は、政治資金の問題、投票権の問題、LGBT市民権の問題、女性の出産/中絶選択権の問題など幅広い分野での裁断を問われることになる。スカリア判事不在の最高裁がこれからどちらに傾くのか注目したいところである。

本記事の内容は、一般的事実を述べているだけであり、特定の状況に対する法的アドバイスではなく、それを意図したものでもない。個々の状況に対しての法的アドバイスは、直接当事務所にご連絡頂くか、専門の弁護士にご相談されることをお勧めする。

J weekly https://jweeklyusa.com/

Go Back