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セクハラ、差別、報復行為 ~従業員を守る貴社のポリシーは万全か?~

11月8日の米大統領選に向けて視聴率獲得と広告費の増収に全力で取り組むべき重要な時期に、Fox News Channel(以下「Fox News」)が、最高責任者のセクシャルハラスメント容疑で窮地に立たされている。7月6日付ニューヨーク・タイムズ紙によると、Fox Newsの昼番組「Real Story」の司会を務めていたグレッチェン・カールソン氏は、同社の会長兼最高経営責任者(CEO)であるロジャー・エイルズ氏が長年に渡りわいせつな発言を浴びせ性交を求め、カールソン氏が断ると報復行為として同氏の給与減額、降板、雇用契約の更新を拒否したとして、先月ニュージャージー州裁判所に補償的損害賠償、精神的苦痛の賠償、懲罰的損害賠償を求めて訴えを起こした。これを機に、同社の多数の女性キャスターや社員がエイルズ氏によるセクハラを受けたと公表したが、報道業界の巨人であるエイルズ氏自身は、同訴えが事実無根であり名誉棄損だと容疑を一切否認している。

その直後、Fox Newsの親会社21st Century Foxの会長である、メディア王のルパート・マードック氏は、法律家による内部調査を指示した上、その二週間後にFox Newsを20年間に亘り築き上げてきたエイルズ氏を4千万ドルの退職金を与えて解任し、マードック氏自身が暫定CEOに就任し同社の体制維持に努めている。

近年の米報道業界で急成長を遂げたFox Newsは、保守派の声を代弁するチャンネルとして共和党支持者からの人気を誇り、現行の大統領選でも高い視聴率を維持している。同社が、今回の不祥事を回避できなかったのは、社内にセクハラを許容する風土が蔓延し、セクハラを撤廃するシステムが構築されていなかったことに尽きるとの批判もある。カールソン氏の弁護士である、ナンシー・スミス氏は、これをきっかけに「女性はもはやセクハラを許容しないことを分かって欲しい」とし、「女性を虐待する者を保護しないよう」全事業主に訴えかけた。

このような事態を避けるためには、カリフォルニア州で最近改正された雇用法規定を遵守し、各企業が、セクハラのみならず、不当差別、上司からの嫌がらせや報復行為から従業員を守るシステムを構築することが重要である。

<2016年改正:カリフォルニア州公正住宅法(FEHA)>

従来から、5人以上の従業員を持つ雇用者は、差別とハラスメントを撤廃するための合理的な措置を講ずる義務を負っていたが、今年の4月からは、差別、ハラスメント、及び報復行為を撤廃するための詳細なポリシーを打ち出さなければならない。更にポリシーは、下記の全ての事項を明記して書面で残さなければならないとされた。

  • 以下を理由に、差別やハラスメントをすることは法律で禁じられていること:人種、宗教上の信条(宗教上の服装や身だしなみも含む)、肌の色、出身国、祖先、身体障害(HIVとAIDSを含む)、精神障害、医療状態(癌や遺伝子特性を含む)、遺伝子情報、婚姻の有無、性別(妊娠、出産、授乳、又はそれらに関連する医療状態を含む)、ジェンダー(社会学的性)、ジェンダー・アイデンティティー(性同一性/性自認)、ジェンダー・エクスプレッション(性別表現)、セクシャル・オリエンテーション(性的指向)、年齢(40才以上)、軍人/退役軍人のステータス、家族医療休暇取得願いを拒否されたこと
  • スーパーバイザー、同僚、及び第三者は、差別、ハラスメント及び報復行為など、この法律の下における不法な行動をとってはならないこと
  • 苦情提出のためのプロセスを確立し、従業員は直属のスーパーバイザー以外の者にも報告できること
  • スーパーバイザーは全ての苦情を報告する義務があること
  • 全ての苦情が迅速に公平かつ徹底して調査されること
  • 雇用者は、可能な限り機密性を維持すること
  • 不適切な行為が見つかった場合は、是正措置がとられること
  • 苦情を申し立てたり調査に参加した従業員に対し、雇用者が報復行為をとることは禁じられていること

ポリシーは、以下のいずれか又は複数の方法により全従業員に周知を図らなければならない。

  • 従業員にポリシーの印刷物を配布し、受理書にサインをして返却してもらう
  • 電子メールでポリシーを配信し、受信確認を返信してもらう
  • 社内のイントラネットにポリシーを掲示し、トラッキングシステムを利用し全従業員がポリシーを読み受理したことを確認する
  • 採用時又は採用オリエンテーションのときに、ポリシーについて話し合う
  • 従業員がポリシーを受理し理解したことを保証する他のあらゆる方法

なお、英語以外の言語を話す従業員が各職場の全従業員の10%を超える場合は、ポリシーをその言語に翻訳しなければならない。更に、本ポリシーと共に、州が発行しているセクシャルハラスメントのパンフレット(DFEH-185)又はそれと同等のものを従業員に配布することも義務付けられている。

<考察>

カリフォルニアで事業を行う企業は、自社のハラスメント、差別又は報復行為を撤廃するポリシーが上述した事項を含んでいるか、従業員の苦情申し立てを調査し解決するプロセスが構築されているか、ポリシーは文書で作成され、徹底した周知化を図ることができているか等を確認することが重要である。同法を違反した場合は、当局の行政指導や従業員による訴訟の可能性があるので注意したい。

本記事の内容は、一般的事実を述べているだけであり、特定の状況に対する法的アドバイスではなく、それを意図したものでもない。個々の状況に対しての法的アドバイスは、直接当事務所にご連絡頂くか、専門の弁護士にご相談されることをお勧めする。

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