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多国籍企業の節税対策 ~アップル社への税優遇は違法か?~

欧州連合(EU)の欧州委員会は、2016年8月30日付のプレス・リリースで、EU加盟国であるアイルランドがアップル社の法人税を優遇していたのは違法であると判断し、同政府に対し130億ユーロ(約145億米ドル)の追徴課税とそれに伴う利子を請求するよう指示した。これに対し、同日報道のニューヨーク・タイムズ紙によると、アップル社最高責任者であるティム・クック氏は、今回の欧州委員会の判断に対し「何ら違法なことはしていない」、「同委員会の動きは前代未聞であり、広く影響を与える深刻なものだ」などと真っ向から反発。アイルランド政府も「EU加盟国の主権を害する」判断として控訴する意向を示している。欧州委員会の今回の判断は、アイルランド政府のアップル社に対する税優遇措置に一石を投じたものであるが、今後アップル社のみならず世界中で節税対策を行う多国籍企業に大きな影響を与える可能性がある。そこで、今回はこの問題を取り上げたい。

<多国籍企業の節税対策>

現在、米国の法人税率はOECD先進国の中で最も高く、連邦税(最高35%)及び州税を合わせた実効税率は約40%にも上るのが現状である。更に米国の国内源泉所得に限らず、国外源泉所得を含む全世界所得も課税対象となる。それに比較して、一部のヨーロッパ諸国の法人税率は比較的低く、アイルランドは一律12.5%(Passive Incomeを除く)、ネーデルランドは最高25%である(以上につき、KPMG世界各国法人税率一覧表を参考)。このため、世界中に拠点をもつ米国企業は、米国政府への高額納税義務から免れるために、より税率の低い国へ収益や資産を移すために様々な方法で節税対策を行っている(例:アップル社‐アイルランド、スターバックス社‐ネーデルランド、アマゾン社‐ルクセンブルグ、グーグル社‐バミューダ)。しかし、今回のアップル社の問題は、地元のアイルランド政府の採った政策に対し、欧州委員会が違法との判断を下した点で目新しい。

<アップル社による節税対策のからくり>

そもそもアップル社は一体どうやって130億ユーロもの巨額な税金の支払いを免れていたのだろうか。米国では基本的に企業の納税額や送金情報は非公開であるため、アップル社の節税対策の全貌を解明するのは困難であるが、今回の欧州委員会の調査により、少なくとも以下の構造が明らかになっている。

欧州委員会の調査によると、Apple, Inc.(アップル社)は米国カリフォルニア州クパチーノに所在しているが、その傘下に、アイルランド子会社としてApple Sales InternationalとApple Operations Europeの2社を設立。アップル社が世界中で行った事業収益の大半は、アイルランドのこの2社に集められるため、米国連邦政府の課税対象となっていない。これらアイルランドの子会社(主にApple Sales International)は、アップル社との契約に基づきアップル社の研究開発費の総額の半分以上を支払い、それを費用計上して利益を削減。

さらに、Apple Sales Internationalは、経営・管理目的の実態の無いペーパー上の“head office”と実態のある“Irish branch”に分けたうえ、実態が無く課税対象とならない“head office”に殆どの収益を計上し、残りの収益を課税対象となる“Irish branch”にて計上し僅かな税金を支払っていた。これにより、Apple Sales Internationalでの収益の大半は世界中のどの国からも課税されない結果となった。これにより、Apple Sales Internationalの欧州における法人実効税率は2003年には1%、2014年には僅か0.005%であったという。(Apple Operations Europeにおいても同様の構造をとっている)。

この調査結果に基づき、欧州委員会は、アイルランド政府がアップル社に対して税優遇措置を二度適用したことは、特定の企業に対する優遇措置を禁止するEU法(EU State Aid Rules)に反している、と結論付けた。

アップル社は、アイルランド以外でも、ルクセンブルグでiTunesの関連会社を設けたり、米国内ではクラウドやインターネットサービスを運営するデータセンターを法人税非課税のネバダ州で設立することにより節税対策を行っている。

<米国政府の反応>

今回の欧州委員会の判断に対し、米国政府は、自国で回収すべき税金がEUで回収される恐れがあることに憤りを示している。米国財務省は、欧州委員会の調査に対する強い懸念を表すとともに、オバマ大統領は、米国における高い連邦法人税の引き下げ等を含めた税制改革の必要性を訴えている。未だ具体的な法案は成立していないものの、今後の政府や米議会の動きが注目される。

<考察>

今回のアップル社の問題は、一国政府が承認した「合法な」節税対策が、違法と見なされるリスクを提示したものであり、グローバル事業を展開する企業は、今後ますます各国政府や国際協定などの動向を踏まえながら、慎重に世界的な節税対策を練らなければならない。

本記事の内容は、一般的事実を述べているだけであり、特定の状況に対する法的アドバイスではなく、それを意図したものでもない。個々の状況に対しての法的アドバイスは、直接当事務所にご連絡頂くか、専門の弁護士にご相談されることをお勧めする。

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