インターネットの発達により、人、物、情報、サービスをつなげるシェアリング・エコノミーの中でも急成長を遂げているAirbnb社は、2016年5月、アフリカ系アメリカ人利用者より、人種差別を受けたとしてクラスアクション訴訟の申し立てを受け、同社の差別問題への取り組みが注目されている。

＜Airbnb社について＞

Airbnb社は、部屋を貸したい人（ホスト）と借りたい人（利用者）をマッチングするプラットフォームの提供会社として、2008年にサンフランシスコで設立され、今では世界191か国以上、3万4千都市で2百万件の物件を掲載、利用者は6千万人以上（以上Airbnb社ウェブサイトより）、時価総額3百億ドルの巨大企業へと急成長した（2016年8月16日付フォーチューンより）。

＜Airbnbの差別問題＞

ところが、2015年12月にハーバード大学の研究者達がAirbnbの予約傾向について発表した文献（“Racial Discrimination in the Sharing Economy: Evidence from a Field Experiment” by Benjamin Edelman, Michael Luca, and Dan Svirsky）によると、アフリカ系アメリカ人によく見られる名前は、白人によく見られる名前で予約を入れるよりも16％拒否される確率が高いという実験結果を得たとし、Airbnbのデザインがこれに加担している可能性が高いと結論づけた。この発表を切っ掛けに、人種を理由に宿泊を拒否された利用者の声がソーシャルメディアに殺到し、ホストによる差別問題が浮き彫りにされた（2016年9月8日付ニューヨークタイムズ紙より）。2016年5月には、アフリカ系アメリカ人の利用者Gregory Selden氏が、Airbnb社を相手取り、予約時にホストから人種差別を受けたと主張してコロンビア地方裁判所にクラスアクション訴訟の申し立てを行った（Gregory Selden 対Airbnb、現在訴訟係属中）。

＜Airbnb社の対応＞

Airbnb社は、全利用者に合意を強制する利用規約の中で、紛争解決手段は仲裁で行う旨、仮に訴訟となってもクラスアクションを放棄する旨を明記している。このため、裁判所が今回の訴訟申立てを認め、クラスアクションとして認定するか否かが注目されている。一方、Airbnb社は、判決を待つまでもなく、米国自由人権協会（ACLU）の前ディレクターLaura W. Murphy氏、前米国司法長官Eric H. Holder Jr.氏等の有識者を集め、法が要求する以上に厳格な対策を自主的に打ち出した。

＜Airbnb社の差別問題に対する新たな取り組み＞

Airbnb社がMurphy氏に依頼した2016年9月8日付レポート（“Airbnb’s Work to Fight Discrimination and Build Inclusion” by Laura W. Murphy）によると、同社は、次の9つから成るAirbnb Community Commitmentの導入を計画している：①全利用者は、人種、宗教、出身国、障害、性別、性同一性、性志向又は年齢にかかわらずお互いを尊重し合うことを誓う、②全利用者は、差別禁止ポリシーに従う、③社内に多様性を促進し偏見を排除するための部署を設置、④ホストの承諾なしに予約可能なシステムの導入、⑤予約プロセスの中で顔写真を強調しない工夫、⑥差別禁止ポリシー遵守の徹底、⑦差別のため予約できない利用者に宿泊先の保障、⑧偏見排除のための研修の実施、⑨職場の多様性を確立するために多様な人材を管理職に抜擢。

＜考察＞

今回のAirbnb社の対応は、訴訟提起されメディアで取り上げられた後、差別問題の解決に向けた努力として評価できるが、より早期に対応していたならば、今回の訴訟は防げたかもしれない。Airbnb利用者が合意したクラスアクションの放棄条項や仲裁条項は、あくまでも事後的紛争処理の場面で機能するものであり、また今後の司法判断でその有効性が否定されるリスクも存在するため今後の進展が注目される。

本記事の内容は、一般的事実を述べているだけであり、特定の状況に対する法的アドバイスではなく、それを意図したものでもない。個々の状況に対しての法的アドバイスは、直接当事務所にご連絡頂くか、専門の弁護士にご相談されることをお勧めする

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