米国大統領選の司法に与える影響 ~トランプ次期大統領と米国連邦最高裁~
企業概況 発行日:
Jweekly 発行日:
2016年11月8日、米国史上初の女性大統領と予想された民主党のヒラリー・クリントン氏を僅かな得票差で破り、過激な公約で紙面を賑わした共和党の候補者である実業家のドナルド・トランプ氏が、白人労働者の指示を得て第45代米大統領に当選した。本来、労働者の指示を得る民主党のオバマ政権の屈辱に追い打ちをかけ、連邦議会上下両院も共和党が主導権を維持する結果となった。これを受け、反トランプ派による抗議デモが各地で勃発し、米国内に混乱が広がっている。今年6月のEU離脱を決定した英国の国民投票を彷彿させるドラマに世界金融市場も戸惑いを示しその行方を見守っている。
トランプ氏は、“Make America Great Again”というスローガンの下、オバマケアの廃止、北米自由貿易(NAFTA)や環太平洋パートナーシップ協定(TPP)からの即刻離脱、不法移民の強制送還、法人税の大幅引下げなどの大胆な公約を打ち出しており、今後の政策が右傾化することは間違いない。さらに司法権を担う米国連邦最高裁も右傾化することも予想される。連邦最高裁の司法判断は、米国進出企業の活動にも重要な影響を与える可能性があることから、今回はこの問題を取り上げたい。
<連邦最高裁判事の位置付け>
連邦最高裁は、9名の判事から構成され、多数決により判断が下される。米国憲法第2章第2条第2項では、大統領が最高裁判所の裁判官を指名し、上院の助言と承認を得てこれを任命する旨が定められており、任期は終身である。連邦最高裁判事の選定は極めて政治的であり、その時々の政権と親和性のある判事候補者が任命される。そのため、政権がリベラル派なのか保守派なのかによって判断が大きく変わりうる。
<連邦最高裁判事の空席をめぐる確執とデッドロック問題への終止符>
2016年2月13日、連邦最高裁の判事の中で最も保守派であったアントニン・スカリア判事が逝去した。スカリア判事は、レーガン大統領に指名されて以来30年にも亘り、最高裁の保守派知識人として理論を押し進めた人物であり、最近ではワシントンDCの銃規制は違憲であるとの判決で多数派意見を述べ(2008年コロンビア特区v.ヘラー)、また同性婚は憲法上の権利と認めた判決では少数派反対意見を述べたことで有名である(2015年オバージフェルv.ホッジズ)。
スカリア判事の逝去により空席となった判事席をめぐり、共和党が多数を占めている上院は、大統領選挙を間近に控えていることを理由に、オバマ大統領が指名したコロンビア特別区連邦控訴裁判所のメリック・ガーランド主席判事の承認手続きを拒否したため、民主党と共和党との確執が続いていた。さらに、スカリア判事亡き後の残る8名の判事は、リベラル派4名対保守派4名という構成のため、論点によっては決着がつかないというデッドロック状態が継続していた。しかし、今回トランプ氏が、保守派の判事を任命することがほぼ確実になり、現在の膠着状態に終止符が打たれることになる。
<今後の連邦最高裁と企業活動への影響>
今後の連邦最高裁では、その司法判断が問われているLGBT市民権の問題、政治資金の問題、投票権の問題、女性の出産/中絶選択権の問題などについて、保守的な判断に傾くことが予想される。米国進出企業にとっての関心は、Uberの仲裁条項の有効性に対する連邦最高裁の論点であるが、企業側に有利な判断が予想される。しかし、関税やVISAなどの政策面で米国進出業にとって不利な状況に置かれる可能性があるため、今後トランプ政権の動きを注意深く見守る必要がある。
本記事の内容は、一般的事実を述べているだけであり、特定の状況に対する法的アドバイスではなく、それを意図したものでもない。個々の状況に対しての法的アドバイスは、直接当事務所にご連絡頂くか、専門の弁護士にご相談されることをお勧めする。
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