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TPP離脱とNAFTA再交渉 ~米国保護貿易と日系企業の行方~

2月10日、安部首相とトランプ大統領との首脳会談において環太平洋の日米同盟の確認が行われるとともに、経済関係については麻生副総理とペンス副大統領が今後の枠組みについて話し合いを行うことが確認された。米国の利益を最優先させる「アメリカ・ファースト」外交政策を打ち出したトランプ大統領は、就任直後に、環太平洋パートナーシップ協定(以下「TPP」)から正式離脱し、北米自由貿易協定(以下「NAFTA」)の再交渉を開始することも表明した。その狙いは、多数国による自由貿易協定から、より有利に条件交渉がし易い二国間貿易交渉へと持ち込み、国内産業保護や雇用回復を図ることにある。そこで、今回はTPP離脱とNAFTAの見直しが日系企業の対米投資等に与える影響について考察してみたい。

<TPP離脱について>

TPPは、環太平洋諸国間の関税撤廃等による自由貿易を促進するために、米国、日本、オーストラリア等をはじめとする参加12か国によって2016年2月に署名され、各国が国内手続きを経て批准する段階に入っていた。しかし、米国が正式離脱したことにより、発効の目途が立たなくなった。日本にとって米国は最大の輸出相手国であり、自動車産業など各業界でTPP発効を前提に様々な政策や企業戦略が練られていただけに、極めて大きな打撃である。TPPに代わり日米二国間で自由貿易交渉が進めば、円安問題の解消や日本国内の農産物市場等の規制緩和が強く求められることが予想される。

その一方で、TPP不参加であった中国が主導権を取り、アジア各国との間で自由貿易を目指して交渉中である東アジア地域包括経済連携(以下「RCEP」)の行方が脚光を浴びている。TPP離脱によりアジアにおける米国の存在感の低下が懸念されるなかで、仮にRCEPが締結されれば、中国及びインドという巨大市場を含むアジア太平洋地域各国間の経済交流は深まるものの、中国の存在感とパワーが一層高まるだろう。政治問題など他の不確定要素も多い中、今後日本政府がどのようにアジアでの主導力を発揮し経済協定の折り合いをつけていくかが注目される。

日系企業は、このような世界情勢のなか、米国やアジア圏における各産業毎の関税等の動向を見据えながら、米国の対米投資施策の見直しを迫られている。

<NAFTA再交渉について>

NAFTAは、1994年に米国、カナダ及びメキシコの3か国間で発効された自由貿易協定であり、現在、関税はほぼ撤廃されている。自動車産業等の製造業を中心に、日系企業含む多国籍企業は、このような自由貿易協定とメキシコの安い人件費に目をつけ、米国からメキシコへ製造拠点を移し、低コストでメキシコで生産した製品を米国に輸出してきた。その結果、発効から15年後には、上記3か国の総GDPは2倍以上に増加した(http://www.naftanow.org/参照)。しかし、トランプ政権は国内産業保護と雇用確保のためにNAFTAを見直し、メキシコからの輸入関税を35%に引上げ、二国間交渉を進めると発表した。これに対しメキシコは、貿易のみならず、不法入国や麻薬取締の問題も併せて交渉に臨む意向だ。

関税引き上げが実現すれば、メキシコに製造拠点を持つ日系企業は、高い関税を負担してでもメキシコに残って米国への輸出を続けるか、トランプ政権の思惑どおりに新たな設備投資をして人件費の高い米国に拠点を移すか、又は米国以外の市場を狙うか等の対応を迫られている。

いずれにしても、コスト増加分は販売価格に上乗せされる形で米国消費者の負担となるであろう。

<まとめ>

TPP離脱とNAFTA再交渉の問題は、日系企業にとって大きな外部環境の変化であり、対米投資をはじめとする海外投資の見直しを迫られている点で共通している。先行きが不透明な中、各産業や地域ごとに関税や規制の動向、原材料の調達先、コスト増減等を踏まえた的確なリスク査定に基づき、比較検討しながら投資判断を行う必要がある。

本記事の内容は、一般的事実を述べているだけであり、特定の状況に対する法的アドバイスではなく、それを意図したものでもない。個々の状況に対しての法的アドバイスは、直接当事務所にご連絡頂くか、専門の弁護士にご相談されることをお勧めする。

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