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eコマースと売上税 ~米連邦最高裁の方向転換~

2018年5月17日の米国商務省の発表によると、今年の第一四半期のeコマースの売上は、1千2百3十億ドルを計上し、昨年の同時期と比較して3.9%増え小売売上総額の9.5%を占めた。多忙な消費者にとって、AmazonやeBayなどのオンライン・ショッピングの利便性は高く、特に、地方の消費者にとってはその恩恵が大きいことが要因と見られる。

もう一つ消費者の利益に繋がっているのが、Sales Tax(以下「売上税」)の適用性である。売上税を課税する州に居住する消費者が、その適用を受ける物品(サウス・ダコタ(SD)州の場合はサービスも含む)を州内の小売店で購入すると売上税(NY州売上税4.00%/ローカル税を合わせて8.49%、CA州7.25%/8.54%、FL州6.00%/6.80%、SD州4.5%/6.40%)が必ず課税されるが、州内に拠点を持たない会社が運営するインターネット通販では、それが課税されないのが通常である。課税されなかった場合、消費者は、州に対しUse Tax(使用税)として同額の納税義務が発生するものの、多くの場合このルールが無視されている。その結果、各州は、年々市場規模が拡大するeコマースから膨大な額の売上税を取り逃がし、売上税の課税を義務付けられている地元の小売業は、eコマースとの競争に苦戦し多大な被害を被っているのが実状だ。

しかし、6月21日、米国連邦最高裁判所は、South Dakota v. Wayfair, Inc.における判決において、サウス・ダコタ州が、他州のeコマースから売上税の徴収を強いることが可能とし、各州政府や小売店業界は、ようやく公平なルールが設定されたとして同判決を全面的に支持している。

今回の判決は、実質的な拠点を持たない他州の事業に対して売上税を課すことは米国憲法で認められていないとする1992年の米最高裁の前判決(Quill Corporation v. North Dakota)を覆す形となった。往時のカタログ通信販売事業を対象とした前判例は、90年代後半から浸透し始めたeコマースを他州の売上税徴収義務から免除し、その成長を大きく助ける形となった反面、全米で何十億ドルものの売上税の取り逃がしという結果を生んだのである。

サウス・ダコタ州は、所得税を課税しない全米7州の一つであり、売上税の取り逃がしは州の財政に大きく影響する。よって、2016年、同州議会は州法を改正し、州内に拠点がなくても物品やサービスの販売業者が、一回10万ドルを超える取引、もしくは200回以上の取引を行う場合、同州の売上税を徴収し納税することを義務づけた。しかし、同州に拠点を置いていないWayfair、Overstock.com及びNeweggは、同州法が1992年の最高裁の判例に基づき米国憲法違反であるとし、売上税の納税を行なわなかったため、同州がこれら三社を相手取り、売上税滞納を理由に訴訟を提起し、第一審、第二審で敗訴した挙句、ようやく米最高裁で勝訴(5対4)した。

サウス・ダコタ州のMartin Jackley司法長官は、この度の判決が「サウス・ダコタと全米のビジネスにとって勝利」であると述べ、特にeコマースの打撃を大きく受けている地方にとって重要な判決であるとした。しかしながら、同判決により、売上税の支払いを免れない消費者の負担が増えるのは止むを得ない。

既にAmazonなど大規模なネット販売企業は、売上税の徴収を実施しているため、今回の判決の影響はそれほど大きくはないとの見方を持つ専門家が多い中、ネット販売を営む小規模企業のコンプライアンス上の負担が懸念される。

<考察>

今回の判決は、サウス・ダコタ州の規程に基づくものだが、今後、その他の州におけるコンプライアンス上の影響について、専門家のアドバイスを仰ぎながら適切な手続きを行うことをお勧めする。

参考文献:米国連邦最高裁判所 判決文(South Dakota v. Wayfair, Inc., et al.)、2018年6月21日付ニューヨークタイムズ紙、同日付アトランティック紙

ここで扱う内容は、一般的事実であり、特定の状況に対する法的アドバイスではなくそれを意図したものでもない。

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