取締役会の多様性要件を拡大する州法~カリフォルニア州で発効~
企業概況 発行日:
Jweekly 発行日:
人種差別問題やその他の差別・偏見に関する社会的課題を改善するための取り組みをめぐる全国的な議論が大きく報道されている。このような状況の真っただ中で、カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事は2020年9月30日、社会的に過小評価されているコミュニティ(underrepresented community)(以下「過小評価コミュニティ」)の取締役選任を義務付ける州法(以下「AB979」)に署名した。今回は、取締役会の多様化を積極的に進めるカリフォルニア州で施行された全米初の州法について詳しく見ていこう。
概要
過小評価コミュニティとは、社会を構成する人々の多様性が正しく反映されていない、過少評価されている人々のことを指し、黒人、アフリカ系アメリカ人、ヒスパニック系、ラテン系、アジア系、太平洋諸島系、ネイティブアメリカン、ハワイ先住民、アラスカ先住民、またはゲイ、レズビアン、バイセクシュアル、トランスジェンダーを自称する人々が含まれる。
AB979は、カリフォルニア州会社法第301.4条および第2115.6条として追加され、米国証券取引委員会(SEC)に提出する企業の年次報告書であるForm 10-Kに記載されている主たる事業所(principal executive office)がカリフォルニア州にある上場企業が対象となる。デラウエア州など別の州で設立された企業であっても、その主たる事業所がカリフォルニア州にある場合、新しい法律の適用対象となることに注意が必要である。同法によると、まず2021年末までに過小評価コミュニティから1名以上の取締役を選任することが適用企業に義務付けられ、その後2022年末までには、取締役総数が9名以上の企業では過小評価コミュニティの取締役3名以上の選任、取締役総数が4名以上9名未満の企業では過小評価コミュニティの取締役2名以上の選任が義務付けられる。また、違反企業には、初回で10万ドル、2回目以降は30万ドルの罰金が科せられる。
背景
AB979を可決するにあたり、カリフォルニア州議会は、上場企業の取締役会に過小評価コミュニティのメンバーが不足していることを示す多数の研究を引用している。例えば、カリフォルニア州に本社を置く662の上場企業のうち、233社(約35%)は取締役会の100%が白人で構成されている。また、ラテン系、アフリカ系アメリカ人、アジア系、その他の過小評価コミュニティの取締役が1名以上いるのは、それぞれ13%、16%、42%、6%である。対照的に、これら上場企業の100%全てに1名以上の白人の取締役がいる。
加えて、AB979は、シリコンバレーにある企業でアフリカ系アメリカ人の役員やマネージャーの割合は1%以下であることを指摘するとともに、人種や民族的な多様性が10%増加するごとに税引前利益が0.8%増加するとしている。また、もしテクノロジー企業が人種面において更に多様性をもたらすことができれば、3000億ドルから3700億ドルの追加の収益につながるという統計も出されている。
2018年、カリフォルニア州は上場会社に対し、2019年末までに1名以上の女性取締役を選任することを義務付ける州法(以下「SB826」)を法制化した。今回施行されたAB979の構成と法律条項は、SB826に倣って作られている。従って、カリフォルニア州の上場企業は現在、女性取締役と過小評価コミュニティの取締役選任という、両方の法律を遵守する必要がある。カリフォルニア州はこれらの法律に基づき、上場企業の取締役会の多様性を進め、企業価値の向上、経済の活性化などを実現すべく、継続的に取り組んでいる。
考察
過去を見てみると、カリフォルニア州で新しく制定された法律は全米に拡大する傾向があり、この新しい法律に関しても今後の進展に注目していく必要がある。カリフォルニア州に主たる事業所を置く企業は、適切な取締役の選任に向けて準備を開始されることをお勧めする。
ここで扱う内容は、一般的事実であり、特定の状況に対する法的アドバイスではなくそれを意図したものでもない。
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