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加州Prop22とそれが与える影響~アプリベースのライドシェアやフードデリバリーの運転手は独立請負人~

第52回では、「運転手は従業員、ギグワーカーの権利保証~カリフォルニア州で新たな法律が施行~」として紹介したが、直近の大統領選に合わせて実施されたカリフォルニア州の住民投票では、アプリを通じたライドシェアやフードデリバリーの運転手を従業員の扱いから除外する提議(Prop22)が58.6%の賛成多数で承認された。今回はその概要について説明する。

住民投票の背景

2020年1月に施行されたAB5は、事業主が労働者を独立請負人として扱うための「ABCテスト」と呼ばれる3つの条件を定めている。その条件とは、労働者が(A)業務に関する契約または業務の遂行中に、事業主の指揮命令下にないこと、(B)事業主の通常業務の範囲外の業務を行うこと、(C)従事している業務と同じ性質の独立した商売、職業、事業に従事していることである。AB5をめぐっては、カリフォルニア州司法長官らが5月に起こした訴訟で、州上級裁判所が8月、UberやLyftの運転手はAB5に当てはまらないと判断し、両社に運転手を従業員として扱うよう求める仮命令を出した。従業員として扱うようになれば、事業主に毎年数億ドルの人件費やその他の経費が掛かり、そのコストを消費者に回す必要が出てくることから、両社はライドシェアサービスの一時停止に踏み切る考えを表明していたが、効力発生直前に上級裁が仮命令の猶予期間を延ばし、土壇場で事業停止を回避するなど、大きな混乱を招いていた。こういった背景の下で、Uber、Lyft、DoorDash、Postmatesは、総額約2億ドルの資金を注入して、積極的にProp22を支持するキャンペーンを展開していった。これは、カリフォルニア州で行われた住民投票で最も費用をかけたものとも言われている。

Prop22の概要

Prop22は、カリフォルニア州内でライドシェアやフードデリバリーを提供する運転手を独立請負人として定め、自由で柔軟な働き方を保護するとともに、従来は従業員にのみ提供されてきた福利厚生の一部を提供するというものである。具体的には、最低賃金の少なくとも120%の収入、業務中の諸経費の支払い、医療保険補助、業務中の事故に対する労災保険、差別・セクハラからの保護、自動車事故及び賠償責任保険を保証する。収入保証や、諸経費の支払いは、運転手が仕事に従事している時間のうち、実際に搬送業務を行なっている時間のみが勤務時間とみなされ、たとえ運転手が事業主のアプリにログインしていても、乗車やデリバリーの待機時間は勤務時間に含まれない。また、今回のProp22では、独立請負人として区分できる対象が、ライドシェアやフードデリバリーの運転手のみとなっていることに留意が必要である。

考察

住民投票の結果は、州議会議員の8分の7の賛成によってのみ変更できるが、Prop22で承認されたこの新しいハイブリッド的要素を持つ独立請負人としての労働者区分が、既に定着している従業員と独立請負人の区分にどのような影響を与えるか、また他の業界にどのように影響を与えるかは、時間とともに見えてくるだろう。一方で、Uber、Lyft、DoorDash、Postmatesがこの新たな労働者区分を主張してきた理由は、経費を可能な限り抑え、消費者に安価でサービスを提供することが目的であったが、Prop22により経費が上がることは必至である。現に12月の半ばにUberとDoorDashはサービス料金の値上げを発表している。UberやLyftなどが係争中の訴訟における法的課題が必ずしも解決されたわけではないが、今後ギグエコノミーと働き方改革について、有意義な政策議論が推進されることに期待したい。

ここで扱う内容は、一般的事実であり、特定の状況に対する法的アドバイスではなくそれを意図したものでもない。

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