米国のM&A市場と戦略 ~最新動向と概要~
企業概況 発行日:
Jweekly 発行日:
M&A市場の動向(Q1 2021)*
米国のM&A市場は、コロナ禍から回復し始めた世相を反映して引き続き活発な動きを見せており、2021年第1四半期のM&A件数は約1,595件(前四半期比-6.6%)と減少したものの、取引総額は5,630億ドル(前四半期比+1.6%)とわずかに増加し、過去最高取引総額であった2020年第4四半期の記録を更新した。
航空機、鉄道、自動車といった運輸業分野は大規模な取引金額となり、 2021年第1四半期には、アイルランドを拠点とするAerCap HoldingsによるGE Capital Aviation Servicesの買収(310億ドル)、カナダを拠点とするCanadian Pacific Railwayによる米国上場企業Kansas City Southernの買収(286億ドル)といったクロスボーダー案件が発表された。
テクノロジー分野のM&Aは、引き続き市場を牽引しており、 2021年第1四半期の全米取引件数は417件、取引総額は1,640億ドルであった。これは、米国における取引総額の29%に相当する。2021年第1四半期における最大の取引は、United Health Groupが支援するOptumInsightによるヘルスケアITプロバイダーであるChange Healthcareの買収(125億ドル)であった。
また、世界市場でもそうだが、米国では、特別買収目的会社(SPAC: Special Purpose Acquisition Company)による買収が盛んで、2021年第1四半期は79件、取引総額1,650億ドルとなり、2020年の総取引額と比較して25%増加した。現在は、世界的金融市場において、潤沢な資金があり、M&Aの取引件数が今後一層増加することが見込まれるが、SPACによるM&Aが果たして持続可能かどうかは今後見えてくるであろう。
買収理由
M&Aを進める理由は、事業成長と売上拡大である。具体的には、新製品や他市場への参入、新技術や主要人材の獲得、知財権の確保、生産力の増強、節税対策等が挙げられる。また、最近ではグループ内の事業再編やノンコア事業の売却、市場での生き残りをかけた企業統合等も増えている。
ターゲット(対象)企業の確保
適切なターゲットを確保するためには、できるだけ多くの情報を遅滞なく収集することが重要である。シリコンバレーの企業はターゲット候補の情報を瞬時に交換しており、日本企業には、地元のM&Aブティック、VC、投資銀行、コンサルタント、会計事務所や法律事務所等の外部専門家との繋がりが重要になる。
ターゲット選定には時間がかかるが、M&Aが活発な米国においては、時間をかけて交渉しているうちに他の企業にターゲットを奪われてしまうことが多い。時機を逸せず判断を行うためには、決定権を持つ責任者が初期段階からテクノロジー、製品、営業、財務、人事の各分野の責任者から成る買収企画チームに参加し、外部専門家やアドバイザー、コンサルタントの協力を得て時宜にかなった賢明な判断を行うべきである。
ターゲットを確定後、初期デューデリを開始し、管理職のパフォーマンス、保有テクノロジーの評価、成長可能性、財務諸表や資本構成の精査を行い、企業文化の相性等を評価する。
ディール・ストラクチャーの構築
両当事者が買収意志を確認した時点で、買手は弁護士、会計士、M&Aアドバイザーと相談しディール・ストラクチャーを構築する。シリコンバレーのディールは、一般的に次のような手続きを含む:①秘密保持契約書(NDA)の締結、② 法的拘束力の無い基本合意書(LOI)と契約条項の内容交渉と締結、③デューデリ(ビジネス、法務、財務、税務、知財、人事、IT、環境リスク等)、④最終譲渡契約書の交渉と締結、⑤クロージング。M&Aフローは状況により異なり、シリコンバレーのスタートアップ企業の買収では、通常2~3ヵ月以内にクロージングするが、大規模なM&Aの場合は半年以上かかることもある。
M&A後の統合
M&A後の統合プロセスは複雑かつ時間がかかるため、難局はクロージングの後に起こり易い。統合プロセスは、人事、企業文化、テクノロジー、IT、社内システム、知財、財務、顧客等の多岐の面にわたり、事前の計画が十分に練られていないと、従業員の士気が下がり、業績に悪影響を及ぼし兼ねない。統合計画を綿密に立て、従業員に明瞭な情報を提供することが、真の意味でM&Aを成功させるためにも重要である。
* Mergermarket “Global & Regional M&A Report 1Q21.”
ここで扱う内容は、一般的事実であり、特定の状況に対する法的アドバイスではなくそれを意図したものでもない。
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