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アプリベースの運転手は従業員?~加州高等裁判所の判決~

2021年8月20日、カリフォルニア州高等裁判所の判事は、2020年11月に住民投票で可決された、ライドシェアやフードデリバリーの運転手を従業員ではなく独立請負人(独立・個人事業主)として見做すことを認めた提議 Proposition 22 (以下、「Prop 22」)が、州憲法に違反しているという判決を下した。

Prop 22の背景

2019年9月18日、カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事の署名により、労働者を従業員ではなく、独立請負人として見做すための条件を示す州法「AB 5」が法制化され、2020年1月から施行された。これにより、UberやLyftなどのギグエコノミー企業は、条件を満たさない運転手を「従業員」として扱わなくてはならなくなった。そこでギグエコノミー企業は、人件費等の事業運営にかかる莫大なコストを避けるため、Prop 22という提議を発案した。Uber、Lyft、DoorDash、Postmatesは、総額約2億ドルの資金を注入して、このProp 22を推進するキャンペーンを展開していた。

Prop 22は、カリフォルニア州内でライドシェアやフードデリバリーを提供するアプリベースの運転手を独立請負人として定め、自由で柔軟な働き方を保護するとともに、従来は従業員にのみ提供されてきた福利厚生の一部を提供するというものである。具体的には、最低賃金の少なくとも120%の収入、業務中に発生する諸経費の支払い、医療保険補助、業務中の事故に対する労災保険、差別・セクハラからの保護、自動車事故及び賠償責任保険を保証することになっている。

その一方で、収入保証や、諸経費の支払いの対象となる勤務時間は、運転手が仕事に従事している時間のうち、実際に搬送業務を行なっている時間のみとされ、たとえ運転手が事業主のアプリにログインしていても、乗車やデリバリーの待機時間は勤務時間には含まれない。UC Berkeley Labor Centerが、勤務時間に含まれない待機時間を含めて実質的な時給を計算したところ、その金額は5.95ドルにまで落ちることもあると予測したことから、この金額がカリフォルニア州の最低賃金である14ドルを大きく下回ることになるといった問題も指摘されている。

判決内容の概要

この様な状況のなか、多様な職種の労働者で組織されている労働組合SEIU(= Service Employees International Union)などが原告となって、Prop 22を無効にするための裁判を起こし、カリフォルニア州アラメダ郡高等裁判所のフランク・ローシュ判事は、以下の理由でProp 22は憲法違反だという判決を下した。

  • カリフォルニア州憲法下では、議会が労災補償制度の規定を制定する絶対的な権限を有しているにも拘らず、Prop 22は、その権限の行使を制限している。
  • カリフォルニア憲法下では、議会は労働組合制度の規定を制定する権限を有しているが、Prop 22は、ドライバーが団体交渉できないように組合結成を実質妨げる規定となっているため、間接的に議会の権限の行使が妨げられることになる。

ローシュ判事は、Prop 22 は、独立請負人の労働者としての権利を保護するものではなく、労働環境における安全と最低賃金を保障するものでもないと述べた上で、本来の憲法の改正手続きを通さずして、住民投票による法律発案で、実質的に憲法を修正しようとするProp 22 は、執行不能であるとした。

今後の行方と影響

今回の判決によって、Uber、Lyft、DoorDash、Postmatesは、AB 5の条件を満たさない運転手を「従業員」として扱わなければならなくなるところだが、Uberは、カリフォルニア州の住民投票の結果を無視した判決で、道理的にも法律的にも理に適っていないと述べた。また、Prop 22を可決させるためにギグカンパニーによって組織された政治活動団体(Protect App-Based Drivers & Services Coalition)は、ただちに控訴するという声明を発表した。このため、カリフォルニア州最高裁判所での判決が下りるまでは、Prop 22 は現状のまま維持される可能性が高い。

Prop 22に対する判決は、アプリベースの運転手だけではなく、他のギグワーカーにも、そしてカリフォルニア州に限らず、全米規模で影響する可能性があるので、今後の展開に注目したい。

ここで扱う内容は、一般的事実であり、特定の状況に対する法的アドバイスではなくそれを意図したものでもない。

Yorozu Law Groupは、サンフランシスコに拠点を置く国際法律事務所で、企業法務、国際税務、M&A/戦略的提携、ライセンシング、国際商取引、雇用法において日本語と英語で法務サービスを提供している。© Yorozu Law Group

略歴

萬(よろず)タシャ

Yorozu Law Group 代表弁護士

オレゴン州生まれの関西育ち。カリフォルニア州・オレゴン州弁護士、MBA取得。米国で20年以上の弁護士経験を有し、日系企業の外部顧問を多数務める。現在、北加日本商工会議所会頭、米日カウンシル常任理事兼書記役、ジェトロ SF 中小企業海外展開現地支援プラットフォームの法務コーディネーターを務めている。日英に堪能。

企業概況ニュース・U.S. JAPAN PUBLICATION N.Y. INC.・https://ujpdb.com/

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