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加州労使間の仲裁義務について~企業が留意すべきリスク~

2018年5月21日、米連邦最高裁判所は、労使間の仲裁条項を含む労使間契約や仲裁合意書は強制できるという司法判断を下した。その後、2019年10月10日、カリフォルニア州知事ギャビン・ニューサムは、仲裁手続きを強制することは違法であるという法案Assembly Bill 51(以下「AB51」)に署名し、2020年1月1日に執行することになっていた。しかしAB51は無効であるという訴訟が続いているため、執行されないまま今日に至っている。今回は、企業にとって重要なこの法改正の現状に焦点を当ててみよう。

労使間の仲裁とは

仲裁(arbitration)とは、訴訟とは異なり、第三者である仲裁人の裁定により終局的に紛争解決を図る手段であり、当事者間の「仲裁により紛争解決を図る」旨の合意を要する。訴訟は、公開の法廷で裁判官と陪審員が事実認定と法の解釈・適用を行って判決を下す手続きであるのに対し、仲裁は、当事者に選定された仲裁人が非公開で裁定を行う。仲裁合意の契約に署名すると、たとえ仲裁判断の内容に不服があっても、通常はその内容を裁判で争うことはできなくなる。

AB51の概要

ここ数十年は、雇用主が採用時の雇用の条件として、仲裁による紛争解決を義務付ける仲裁合意に署名させることが一般的に行われていた。例えば、雇用主と従業員との間にハラスメントや差別、労働違反などのトラブルが生じた場合、訴訟手続きではなく仲裁による解決をするように強制していたのだ。AB51は、この仲裁合意の義務付けを禁止するもので、カリフォルニア州公正雇用住宅法(The California Fair Employment and Housing Act「FEHA」)や、労働法で認められている裁判所への提訴権の放棄を要求することを禁止している。この改正法により、雇用の条件として仲裁合意を強制した雇用主は、AB51に違反したことになり、訴訟の対象となる可能性がある。

AB51と連邦法との整合性

しかし、米商工会議所とカリフォルニア州商工会議所が率いる複数の企業は、AB51が執行される前に、カリフォルニア州司法長官を相手取って提訴した。これらの団体は、AB51に対して、連邦法である連邦仲裁法(Federal Arbitration Act  以下「FAA」)が優先されるべきであり、AB51は同法律に反しているため無効であると主張している。現時点では、FAAは既に合意済みの仲裁条項のみに有効であるが、AB51は今後締結する労使間の仲裁条項の合意に絞って適用されるべきかどうかなどの論点が争われている。

米国に進出している日本企業への影響

AB51に対する反発が続いているため、その適用範囲などは今後さらに明確にされるが、企業は今からAB51に関する対応を検討しておくことが望まれる。まずは、労使間契約に強制的な仲裁合意条項を引き続き含めるか、既存の文書を修正すべきか見直す必要がある。もしAB51が執行されれば、仲裁合意条項を排除しなければいけないことも念頭に置いておかなければならない。また、仲裁合意が労使間契約の一部としてではなく、単独の合意書となるように改訂することを検討するのもよいかもしれない。AB51は実質、従業員に選択肢を与えない強制的な仲裁合意を禁止するものだが、従業員が自分の意思で仲裁解決を選ぶことを禁止するものではないという点も留意しておきたい。雇用主は今後のAB51の動向を注視しながら、必要に応じて、労使間の仲裁条項について専門家に相談することをお勧めする。

ここで扱う内容は、一般的事実であり、特定の状況に対する法的アドバイスではなくそれを意図したものでもない。

Yorozu Law Groupは、サンフランシスコに拠点を置く国際法律事務所で、企業法務、国際税務、M&A/戦略的提携、ライセンシング、国際商取引、雇用法において日本語と英語で法務サービスを提供している。© Yorozu Law Group

略歴

萬(よろず)タシャ

Yorozu Law Group 代表弁護士

オレゴン州生まれの関西育ち。カリフォルニア州・オレゴン州弁護士、MBA取得。米国で20年以上の弁護士経験を有し、日系企業の外部顧問を多数務める。現在、北加日本商工会議所会頭、米日カウンシル常任理事兼書記役、ジェトロ SF 中小企業海外展開現地支援プラットフォームの法務コーディネーターを務めている。日英に堪能。

企業概況ニュース・U.S. JAPAN PUBLICATION N.Y. INC.・https://ujpdb.com/

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