カリフォルニア州公平賃金法 ~男女間の賃金格差を埋めるまでの長い道のり~
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かつて、ジョン.F. ケネディー大統領が、「女性の給与袋には男性と同等の給与が入っていなければならない」と述べ、男女間の賃金格差をなくすための「第一歩」として1963年均等賃金法(Equal Pay Act of 1963)に署名してから半世紀以上も経過しているにもかかわらず、今だに男性が稼ぐ1ドルに対して女性は79セントしか稼いでいないとは驚きである(2015年米国勢調査)。この数字は、2014年のフルタイムの男性従業員の全国平均年俸が50,383ドルであったのに対し、女性従業員の全国平均が僅か39,621ドルだったという統計を元にしている。マイノリティーの女性の場合、その格差はより激しく、白人男性が稼ぐ1ドルに対して、黒人女性は60セント、ヒスパニック女性は55セントしか受け取っていないと同調査は報告している。
2009年にバラク・オバマ大統領が就任し初めて署名した、リリー・レッドベター公正賃金法は、差別的な雇用主の行為に関する訴訟の時効を延長し、不平等な給料が付与される度に提訴可能な期間を更新することを認めたものの、抜本的な改革にはなっていないのが実情である。今だに蔓延する不平等な賃金格差に異議を唱え、2014年にカリフォルニア州フレスノ郡教育委員会を相手取り提訴したAileen Rizo氏をはじめ、多くの州民、州議員、法人、団体の協力により、カリフォルニア州議会は法案SB358を満場一致で可決し、2015年10月6日ブラウン州知事が米国で最も強力な公正賃金法(Fair Pay Act)に署名した。
<判例:Rizo v. Fresno County Office of Education>
Aileen Rizo氏は、数学の修士号を取得し13年間教鞭を執った後、2009年フレスノ郡の教育委員会で数学の教鞭方法を開発するために勤務を開始した。2012年に同じ部署内の同じポジションに男性職員が採用され、Rizo氏は、その同僚が郡職員の10段階の給与レベルのうちレベル9の報酬を受けていることを知り愕然とした。というのもRizo氏が勤務を開始した際、最低であるレベル1の給与からスタートしたからである。Rizo氏は、その同僚よりも経験豊富であり、同部署での経験も長いにもかかわらず、不当に低い給与を支払われていたことについて人事部に直訴した。しかし、フレスノ郡教育委員会は、新規に採用される職員の給与レベルを決定する際、当人の過去の給与歴のみを参考にし、その方針を変更する意思は無いとのことであった。雇用主との交渉では拉致があかず、Rizo氏は、2014年カリフォルニア州上級裁判所にて提訴し、現在審理が進行中である。Rizo氏は、法案SB358を審議する州議会にも証人として出頭し、三人の子供を育てるシングルマザーが、女性であるという理由のみで同じ職務を行う男性より低い給与を受けるのは不当であり、女性が生計をたてている家庭の子供と男性が生計をたてている家庭の子供との間で、結果的に生活レベルの差が生まれるのは非常識であると州議員に訴えた。
<カリフォルニア州公正賃金法(SB358)>
連邦レベルの解決が期待される中、カリフォルニア州は全国に先駆けて公正賃金法を採択した。同州の女性の給与は、男性の稼ぐ1ドルに対し84セントとされ全国平均より高いものの、事業領域によっては格差が激しい。特にシリコンバレーで働く女性は、同学歴の大卒男性の1ドルに対し60セント、大学院/専門課程卒の男性の1ドルに対し27セントしか収入を得ていないという。また、ハリウッド業界では、パトリシア・アークエット氏が、アカデミー助演女優賞を受賞した際のスピーチで男女間の給与格差を訴えて世論を呼び、アカデミー賞ノミネート女優のジェニファー・ローレンス氏も、全くノミネートされたことのない男優らに比べて不当に低い出演料を受けていたことが最近明るみに出た。
公正賃金法は、雇用主が「おおむね似たような仕事」に対しては、男女間の差別なく同等の給与を支払わなければならない旨を規定する。同一の職務内容でなくても、ジョブタイトルが異なっても、更に勤務地が違っても、おおむね似たような仕事をしている限り格差を設けてはならない。もし、男女間の給与に格差があった場合、雇用主は、それが①年功序列、②メリットシステム(資格等を基準とするもの)、③生産性/能力性、④学歴、訓練、経験、などによって生じるものであり、性別によるものではないことを明らかにしなければならない。
さらに、新法は、労働者間で給与額を開示できることを保証し、開示した者に対して雇用主が報復することを禁止している。職場で給与の透明化を図り、不当な格差をなくすためである。しかしながら、これは雇用主が労働者に他の労働者の給与額を開示することを義務づけるものではない。
<考察>
この法律は2016年1月から施行される。雇用主は、給与の算出基準、ジョブタイトルやジョブディスクリプション等を見直し、男女間の給与に格差がある場合は、性別以外の正当な理由があることを確認し、新法と適合するように留意しなければならない。
本記事の内容は、一般的事実を述べているだけであり、特定の状況に対する法的アドバイスではなく、それを意図したものでもない。個々の状況に対しての法的アドバイスは、直接当事務所にご連絡頂くか、専門の弁護士にご相談されることをお勧めする。
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