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~フレックスタイム制を導入するための注意点~

2015 年8月20日付の日本の報道によると、ユニクロを傘下に持つ株式会社ファーストリテイリングが、週休三日制を導入することを発表し注目を浴びている。米国においてはフレックスタイム又はオールターナティブ・ワークウィークと呼ばれ、早朝出勤早退や週休三日制などの変則的な労働時間(以降「変形労働時間制」)を認める会社が増えている。2004 年の米労働省の統計によると、フルタイム労働者の27.5%にあたる約2千7百万人が、何らかの変形労働時間制を利用しているらしい。土曜日が「半ドン」の週休1.5日制を経験した世代にとっては夢のような話だが、このような制度を導入する上で注意すべき法規制やメリット・デメリットについて話してみよう。

 

<変形労働時間制に関する米法規制>

連邦法である公正労働基準法(Fair Labor Standard Act)で規定する残業手当は、週40時間を超える労働のみが対象だが、カリフォルニア州労働法では一日8時間を超える労働も残業手当の対象となることはご存知であろう。つまり雇用主は、一日8時間又は週40時間を超える労働に対しては時給の1.5倍、一日12時間を超える労働や連続7日目の勤務で8時間を超える労働に対しては2倍の残業手当を支払わなければならないのが原則である。

 

連邦法下では、変形労働時間制について特に規定はなく労使間の合意の上で導入できる。一方、カリフォルニア州労働法第511条では、変形労働時間制をAlternative Workweek Schedule(以降「AWS」)と呼び、一日の労働時間が10時間を超えず、かつ一週間の労働が週40時間を超えないAWSを導入すれば残業手当の支払いが免除されると規定している。ただしAWSが合法と見なされるためには州法上の規定を遵守する必要がある。以下はその概要であるが詳細については専門家にご相談されたい。

 

  • 自社のノンエグゼンプト従業員がAWSを利用できるカテゴリであることを確認(在宅看護業務等は不可)。
  • AWSが適用される部署(ワーク・ユニット)を確定。
  • 該当部署の全ての対象従業員に対し書面でAWSの内容を通知。
  • 残業手当が適用されないAWSは、一日10時間以内(ヘルスケア業界の場合12時間以内)、かつ一週間40時間以内の労働である事。
  • AWSの通常勤務日で8時間を超えた労働に対しては時給の5倍、12時間を超えた労働に対しては2倍の残業手当を支払う必要有り(上記4の場合は例外)。
  • AWSの通常勤務日以外の日に勤務する場合は、最初の8時間に対しては時給の5倍、8時間を超えた労働に対しては2倍の残業代を支払う必要有り。
  • AWS下で従業員が利用できるスケジュールの選択肢を与えても良いが、雇用主の同意があれば従業員はその選択を週単位で変更できる。
  • 通知後14日間経過してから対象従業員は導入の是非について無記名投票を行う。
  • 導入には対象従業員の最低2/3以上の同意が必要。
  • 投票後30日以内にその結果をカリフォルニア州労働基準執行局(DLSE)に通知する必要有り。
  • AWSを撤廃する場合は、前項の規定に基づく従業員の投票によるか、雇用主の裁量により可能。

なお、規定を違反した場合はAWSが無効と見なされ、雇用主は未払いの残業手当や罰金の支払い義務を課せられる可能性があるので、導入に際しては専門家のアドバイスを基に慎重に進める必要がある。

 

<変形労働時間制のメリット・デメリット>

AWSを利用すれば、従業員にフレキシブルな就業時間を提供でき人材確保につながる。更に稼働日を4日に減らして電気代などのコスト削減が可能である。しかし、残業手当の規定が複雑なため労使間の認識のずれが訴訟に発展する可能性がある。以下にその一例を挙げよう。

 

<過去の判例:Mitchell v. Yoplait

原告Mitchellは、被告Yoplaitのカリフォルニア州カーソン市にある倉庫の従業員として勤務していた。同社は、1999年に原告を含む対象従業員による投票を行い、12時間労働を週3日及び6時間労働を週1日のAWSを導入した。同AWSでは、12時間労働のうち10時間を超える2時間のみが残業手当の対象であった。しかし、原告は、12時間労働を含むAWSは違法であるとし、8時間を超える9時間目、10時間目の労働も残業手当の対象となるとして、同州労働局長に対して異議を申し立てた。

 

同労働局長は、AWSは一日の労働時間が10時間までのシフトを組むことを規定しているにも関わらず、一日12時間のシフトを含むAWSは無効とし、被告に追加の残業代($4,662.66)及び利子($911.85)の支払いを命じた。これを不服としたYoplaitがカリフォルニア州上級裁判所(ロスアンジェルス郡)に訴えた裁判では、Yoplaitが組んだシフトは合法であるとして、労働局長の決定を覆した。その後2006年、同州労働局は、同判例を基に一日12時間を超えない労働時間を設定するAWSは合法という見解を発表した。

 

<考察>

変形労働時間制に関する法令や判例は今後も変わることが予想されるため、変形労働時間制を導入する際は、事前に専門家のアドバイスを仰ぎ事前の準備を万全に整えてから正規の手続きを踏んで導入することをお勧めする。

 

本記事の内容は、一般的事実を述べているだけであり、特定の状況に対する法的アドバイスではなく、それを意図したものでもない。個々の状況に対しての法的アドバイスは、直接当事務所にご連絡頂くか、専門の弁護士にご相談されることをお勧めする。

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