News & Events

~従業員か?インディペンデント・コントラクターか?誤区分による雇用主のリスク~

2015年9月1日、携帯アプリを利用して配車サービスを提供するウーバー・テクノロジーズ社(Uber Technologies, Inc.、以降「Uber」)のドライバーが、同社の「従業員か?」あるいは「インデペンデント・コントラクター(独立請負業者)か?」が問われていた訴訟(Duglas O’Connor他 v. Uber)で、カリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所のエドワード・チェン判事は、同州の16万人のUber ドライバーを代表する4人の原告の申立てを認め、集団訴訟の認定を下した。これにより、世界54ヶ国で展開し約400億ドルの企業価値とも言われている同社のビジネスモデルが危ぶまれている中、9月15日、Uberはチェン判事の集団訴訟認定を不服とする申立てを同法廷に提出し、今後の展開が期待されている。

そもそも、従業員とインデペンデント・コントラクターの大きな違いは、雇用主が従業員に対して一定の法的責任を負う反面、企業とインデペンデント・コントラクターの関係は事業間取引と見なされ、両当事者間で契約上の合意がない限りお互いの法的責任を負わないことである。つまり、雇用主には、従業員のソーシャルセキュリティーやメディケア、失業保険などの給与税を源泉徴収し雇用主の負担分を支払う義務、事業経費の還付義務、最低賃金や残業手当等の雇用法上の法的義務などが発生するのだが、インデペンデント・コントラクターの場合は、自らに納税義務が発生し、事業上の経費やコストも自己負担となる。従って、Uberが契約しているドライバーが従業員と見なされた場合、同社の事業コストが大幅に増大することは自明であろう。同社は、前述の訴訟以外にも似たような数多くの訴訟を全米で受けている。以下にその一例を紹介しよう。

<判例:Berwick v. Uber

サンフランシスコでUberのドライバーとして約2か月間働いていたBarbara Ann Berwick氏は、自分はインデペンデント・コントラクターではなく従業員として区分されるべきであったとして、従業員に認められるガソリン代などの経費の返還を求めてサンフランシスコ郡のカリフォルニア州上級裁判所に訴えを起こした。これに対しUberは、ドライバーとライダーをつなぐプラットフォームのアプリを提供するのみで、ドライバーの勤務時間を規定するような雇用主ではないとして、原告の主張を退けていた。しかしながら、カリフォルニア州最高裁の1989年の判例(S.G. Borello & Sons, Inc.)で用いられた下記11の判断基準に基づき、2015年6月16日、カリフォルニア州労働省長官は、Berwickが「従業員」であると決定し、同州労働法2802条に基づいた経費の返還(約$4,152)を命じた。現在、このケースは控訴中である。

カリフォルニア州では、以下の10の観点から、従業員かインデペンデント・コントラクターかを判断する。

1  役務を提供している当人は、事業主とは全く違う業種のビジネスに従事しているか?

2  その仕事内容は、事業主の通常のビジネスの一部か?

3  仕事のための手段、道具、場所を提供したのは、労働者か、又は事業主か?

4  その仕事のために必要とされる道具や材料への投資は誰が行ったか?

5  その仕事には特別なスキルが必要か?

6  その仕事は、通常その分野では雇用主の指示のもとに行われるものか、又は監督なくスペシャリストにより行われるものか?

7  当人の管理力が、自らの利益や損失に影響を与えるか?

8  役務を提供する時間/期間は、採用された仕事内容を完了するために妥当か?

9 . 雇用者と労働者の関係は恒久的か一時的か?

10  支払い方法は時間毎か、又はプロジェクト毎か?

両当事者が「雇用主と従業員」の雇用関係を築いているという主観的要素は、雇用関係の有無の判断に対して決定的ではなく、前述のような客観的な基準によって導かれるべきである。

なお、従業員か否かの判断は、州レベル以外にも連邦労働省、連邦内国歳入庁(IRS)、など管轄の行政庁が独自の判断基準を用いているものの、基本的な考え方は類似している。但し、カリフォルニア州の基準が最も厳しいため、同州の基準に基づいて客観的な判断を行うことをお勧めする。

<考察>

連邦においてもカリフォルニア州においても、「従業員」は広く解釈されており、違法な区分をした場合は、連邦や州から脱税の疑いがかけられ、労働者から違法な給与額や残業手当の未払いを不服とする訴訟を起こされる懸念がある。またカリフォルニア州では2011年労働法改正により、故意に違法な区分を行った場合には罰金が科せられることになったので、労働者の区分には慎重に対応されたい。

 

本記事の内容は、一般的事実を述べているだけであり、特定の状況に対する法的アドバイスではなく、それを意図したものでもない。個々の状況に対しての法的アドバイスは、直接当事務所にご連絡頂くか、専門の弁護士にご相談されることをお勧めする。

J weekly https://jweeklyusa.com/

 

Go Back