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~米連邦最高裁、「同性婚は全米で合憲」~(後編)

(2015年7月24日掲載の記事に続く)

<合法化に至る経緯>

2015年6月26日、米連邦最高裁判所が、Obergefell v. Hodgesの裁判において下した「同性婚は憲法で保証された権利である」との歴史的判決の法的根拠となった、2013年の米最高裁の裁判(United States v. Windsor)を説明しよう。

2007年、ニューヨーク州に在住する二人の女性(Edith Windsor氏とThea Spyer氏)が、カナダで婚姻後、2008年にニューヨーク州でも両者の婚姻が認められた。2009年にSpyer氏が他界した後、通常の夫婦であれば遺産相続する残された配偶者に対して遺産税が全額免除されるところ、連邦内国歳入庁(IRS)は、1996年に立法化された連邦法DOMAにより、両氏の夫婦関係は認められず、Windsor氏は遺産税(総額:$363,053)をIRSに支払うべきだとしたのである。しかし、最高裁のケネディ判事は、「ニューヨーク州の婚姻法により人格と威厳を保護されている人々を、見くびり、傷つける…合法的な目的は一切ない。従って、DOMAは、違法である」と結論づけた。これを機にオバマ政権は、同性婚者に対する連邦上の権利を保証するべく、政府の方針を変更した。又、同判決は、全米の数々の州の連邦裁判所や連邦控訴裁判所において、同性婚禁止策を違法とする判決の法的根拠となるのである。

さて、全米一の人口を誇るここカリフォルニア州では、前述の経緯に引けを取らない紆余曲折があった。2008年5月15日、カリフォルニア州最高裁の7人の判事のうち4人が、同性婚の合法性を問う裁判(In re Marriage Cases)において州内の同性婚禁止策は州憲法違反であると判決を下してから、同州は、同年6月16日付で同性婚者に対して婚姻証明を発行開始し、マサチューセッツ州に次ぐ第二の州となった。しかし、2008年11月5日から2013年6月27日までの間、婚姻証明の発行が停止されてしまったのである。それは、2008年11月の州住民投票事項8(Proposition 8、以降「Prop 8」)において、同性婚を禁止する州憲法修正案が提議され、1700万人の選挙人のうち79.4%の投票率で行われた州住民投票で52%の投票者の賛成票により通過したためである。これを受けて、2009年、2組の同性カップルが、カリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所において提訴した、Prop 8に挑戦する裁判(Perry v. Schwarzenegger)において、「同性婚を禁止するProp 8は、米国憲法修正14条の法の下の平等な保護に違反する」として、同住民投票を無効とした判決が下されたのである。これに対し、Schwarzenegger前州知事とBrown現州知事は、同判決を控訴しProp 8を保守することを拒否したため、保守派の第三者が代わりにProp 8の合法性を主張して控訴した結果、第9巡回区連邦控訴裁判所において敗訴した。その後、同性婚に反対する保守派は上告し、同裁判は、Hollingsworth v. Perry裁判として米最高裁の判決を仰ぐことになる。2013年6月26日、米最高裁は、そもそも州知事が原告であるはずだが、保守派の原告がカリフォルニア州に代わり上告することは、法的根拠に欠けるとし同裁判並びに第二審は無効との判決を下し、結局、第一審の判決が有効とされたのである。その翌日から、カリフォルニア州では、同性婚に対して婚姻証明の発行が再開されることになった。このような43年に亘る経緯を背景に、今回の最高裁の判決が全米で期待されていたのである。

<判例>

ケンタッキー州、ミシガン州、オハイオ州、テネシー州の控訴審で争われている14 組のカップルとパートナーを亡くした二人の男性の裁判をまとめたObergefell v. Hodges裁判において、最高裁は、5対4の判決で、米憲法修正第14条により、州政府は、同性である当事者二人の婚姻を認める義務があると判決を下した。

「結婚とは愛や家族という理念を具現化する最高の形態であり、文明社会の最も古い価値観の一つである。同性愛者は結婚を軽視しているのではなく、尊重しているからこそ、自分たちが除外されることなく、それを体現できることを願っている。これは人の尊厳として法の下で平等に認められるべきものであり、憲法で保障されている権利である。」

この判決文を書いたケネディー裁判官は、保守派ではあるものの、同性愛者の権利を拡充するのに最も貢献した判事と言える。過去における、ホモセクシャルの性的行為を犯罪とするテキサス州の法律を違憲だとした、2003年の最高裁判決(Lawrence v. Texas)や、DOMAを違憲として同性婚者にも 政府からの福利厚生が認められるようにした前述のUnited States v. Windsor 裁判の判決文もケネディー氏が多数派を代表して執筆している。

<法的効果と今後の動き>

この最高裁の判決により、Baker v. Nelsonの判決から43年目にして初めて全米において同性婚が認められることになる。婚姻登録のみでなく、年金、保険、養子縁組、相続、離婚など、従前、異性間に認められていた法的手続き及び法的保護が同性婚者にも適用されることになる。

しかし、今後、宗教的理由から同性婚に反対する宗教団体は、同性婚者に対する挙式サービスを拒む場合もありうる。これが信教の自由に裏付けられて認めらるか否かについては、更に法廷で争われることになるであろう。

本記事の内容は、一般的事実を述べているだけであり、特定の状況に対する法的アドバイスではなく、それを意図したものでもない。個々の状況に対しての法的アドバイスは、直接当事務所にご連絡頂くか、専門の弁護士にご相談されることをお勧めする。

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