改善されぬアメリカ銃社会へのいら立ち ~オバマ大統領が大統領令を発するまで~
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2016年1月5日、オバマ大統領は、ホワイトハウス、イーストルームでの記者会見で涙を流しながら米国民に銃規制強化の重要性を訴えた。我々を驚愕させた2015年の乱射事件は、6月のサウスカロライナ州チャールストンの教会、7月のテネシー州チャタヌーガ軍施設とルイジアナ州ラファイエットの映画館、10月のオレゴン州ローズバーグのコミュニティカレッジ、12月のカリフォルニア州サンバーナーディーノだけでなく総計330件もあった(Gun Violence Archive調べ)。更に米国の発砲事件による死者総数はなんと年間3万人以上にも及び、もはや危機的状況にあると言わざるを得ない。しかし、全米ライフル協会(NRA)のロビー活動の影響もあり、銃の全面規制を声高に訴えれば政治選挙に勝てないのが現状であり、米最高裁も武装の自由を支持する判決を下している。これらの障壁をかいくぐるかのようにして、オバマ大統領が大統領令を命じるに至った経緯を考察してみよう。
<コロンビア特別区 v. ヘラー (2008年)>
ワシントンDCは、他州と比較して厳しい銃規制があり原則として銃所持を禁止している。更に、合法的な銃の登録には警察署長の許可が必要であり、仮に許可を得て合法な銃器を保管する際にも弾薬を抜き、分解するかトリガーロックをかけなければならない。ワシントンDCの特別警察官であるヘラー氏は、職務中に銃を所持するものの、護身用に自宅でも銃を保管するための許可申請を行ったが、同地区の厳しい銃規制のために却下されてしまった。ヘラー氏は、同地区の銃規制が米国憲法修正第2条に違反するとして連邦裁判所で争った。この修正第2条は、建国直後の1791年に米市民の基本的人権を保護するために採択された憲法修正第1条~第10条に含まれ、「武器保有権」についてこう規定している。
“A well regulated Militia, being necessary to the security of a free State, the right of the people to keep and bear Arms, shall not be infringed.”「規律ある民兵団は、自由な国家の安全にとって必要であるから、国民が武器を保有し携行する権利は、侵してはならない。(訳:在日米国大使館発表)」
第一審は、「修正第2条が、規律ある民兵団とは関係ない個人の武器の所有権を認めるものではない」という1939年の米最高裁判例を基にヘラー氏の訴えを棄却したが、第二審はそれを覆した。ワシントンDCはこれを不服とし、最高裁での審理に至った。2008年最高裁は、5対4の評決によりヘラー氏を支持し、憲法修正第2条は武器を所持し合法的に使用するという個人の権利を保障しており、伝統的に家族を守るために銃を保持し自己防衛のための行為は憲法の保障下にある、従って、それを規制するワシントンDCの銃規制は違憲であると判示した。当時の最高裁判事は共和党の大統領が指名した7名と民主党の大統領が指名した判事の2名で構成され、思想的には保守派4名、リベラル派4名、保守派に近い中立が1名であった。この判決の翌日、当時大統領候補としてノミネートされていたオバマ氏は、従来から銃規制の緩和に強く反対していたものの、皮肉にも同判決を支持すると表明している。
更に、2010年の米最高裁判決(マクドナルド v. シカゴ市)では、コロンビア特別区のみならず他州も修正第2条の武装権を保障しなければならないと判決されたため、全米ライフル協会等が煽り立てて連邦レベルのみならず州レベル、民事レベルにおいても銃規制の撤廃を図る訴訟が900件以上も起こされた。しかし、銃規制反対派の思惑通りに規制が全て撤廃された訳ではなく、学校での所持禁止や精神異常者による所持禁止等の常識的な制限をする法律は認められている。又、テキサス州では1月1日から公共の場でも人目に触れるように拳銃の所持を認める法律が施行されたように、銃の所持に関する法的環境が大きく変化してきていることは否定できない。
<オバマ大統領の大統領令>
90%の国民が何らかの銃規制に賛成しているにも関わらず、司法では前述した最高裁判例ができ、立法府では政治家が動こうとしない。そこで、任期満了を控えたオバマ氏は最後の切り札として2016年1月5日、行政権の権利行使として最強である大統領令を発令し、銃犯罪を減らす政策を打ち出した。大統領令は10項目あり、銃の購入者の身元確認を販売者に義務付けるなどして銃を精神異常者や犯罪歴のある者に売らないようにすることや、FBI職員を増やし違法な銃取引や犯罪を強硬に取り締まる、などを含む。オバマ大統領は、発令と共にこう発言した。「私は大統領の持つ最大限の権利を行使して銃犯罪の犠牲者を減らすつもりである。それが例え全ての犠牲者を救えなくても。例えたった一人でも犠牲者を減らすことになっても」。
本記事の内容は、一般的事実を述べているだけであり、特定の状況に対する法的アドバイスではなく、それを意図したものでもない。個々の状況に対しての法的アドバイスは、直接当事務所にご連絡頂くか、専門の弁護士にご相談されることをお勧めする。
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