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~性差別~

これから様々な法律分野の具体的な判例を紹介しながら米国の社会事情を学んで行く事にする。まず、第一回では雇用上の性差別について取りあげてみよう。

<性差別に関する法整備>

米国では、1938年の公正労働基準法(Fair Labor Standards Act of 1963)の一部として1963年の均等賃金法(Equal Pay Act of 1963、以降「EPA」)が施行され、同じ職務を担う男女間の賃金上の差別を禁止している。

<背景>

Ms. リリー・レッドベターは、1979年から1998年まで20年間(株)グッドイヤー&ラバーで勤務していた。退職時にはスーパバイザーだった。同社に在籍中、Ms. レッドベターは女性であるという理由で上司から差別的待遇を受けた。一人の男性上司は、性的な要求を呑めば高い勤務評定を約束すると迫ったが同氏が会社に苦情を提出したため、報復として不当に低い勤務評定を下した。1990年代には、同じ上司がMs. レッドベターの勤務態度が不十分とする虚偽の報告書を作成したため、社内で「業績最優秀賞」を受賞したにも拘らず同氏の勤務評定は事実とは反対にかなり低いものとなった。

その結果、業務成績を基に決定される給与額は、他の男性の同僚に比較してかなり低く、更に基本給の一定率が昇給額として計算されていたために長期間に他の男性の同僚との差額は大きくなった。同氏は女性として唯一の営業地区マネジャーであったにも拘らず、1997年時点の月給は$3,727と低かったが、同じ役職の男性マネジャーの最低レベルの給与額は$4,286、最高レベルは$5,236であった。1998年の退職時の彼女の給与額は、他の男性の同僚と比べ15%から40%低く退職金などのベネフィットも大幅に低いものであった。

<第一審>

1998年3月、Ms. レッドベターは、米雇用機会均等委員会(EEOC)に苦情申立を提出した。同氏は、8ヶ月後、1998年11月に早期退職し公民権法第7章とEPAに基づく性差別として雇用主を提訴した。既に上司は他界していたが、グッドイヤーは、勤務評定が差別的であったことを否定し、給与額の相違はすべて業績に基づくものであると主張した。最終的に陪審員は、Ms. レッドベターの主張を支持し過去の給与損失分と損害賠償金として3十万ドルを認めた。

<上訴審>

グッドイヤーは、Ms. レッドベターの不均等賃金の訴訟請求はEEOCへの苦情提出してから既に180日経過しているため時効であるとし、上訴審はグッドイヤーの主張を認めた。

<米最高裁の判決>

米最高裁は、公民権法第7章に基づく訴訟は、EEOCへの苦情提出した1998年3月某日の前日から起算して180日以内に提出する必要があるため時効が成立し無効であるとし、上訴審の判決を支持しMs. レッドベターは再度敗訴した。

<オバマ大統領>

2009年1月29日、オバマ大統領は就任後初めて署名する法律として「リリー・レッドベター公正賃金法」を制定し、不当な差別的判断が原因で給与額に影響が出ている場合、例え差別的判断が行なわれてからかなりの日数が経過していても、給与が支払われた各時点で、新たな訴訟請求の訴因とすることが認められるようになった。

<考察>

この「リリー・レッドベター公正賃金法」は、法規定に残されていた落とし穴を埋めるものであり、公正な手続の元に男女間の平等を保障するための一つの大きな成果といって良い。

尚、不平等な賃金差別を避けるために雇用主は以下のことを心がけるべきである。

• 職務内容(指示書)が、実際の職務責任と必要とされる条件を正しく反映している。

• 給与支払いや昇給/昇進におけるこれまでの慣習が、同じまたは同様な職務責任を負う従業員の間で一切相違がない。

• 同じまたは同様な職務責任を負う従業員が性別、または、その他の法で保護されているカテゴリの別に拘わらず公平に賃金が支払われている。

本記事の内容は、一般的事実を述べているだけであり、特定の状況に対する法的アドバイスではなく、それを意図したものでもない。個々の状況に対しての法的アドバイスは、直接当事務所にご連絡頂くか、専門の弁護士にご相談されることをお勧めする。

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