~Brinker Restaurant Corp. v. Superior Court of San Diego County~
企業概況 発行日:
Jweekly 発行日:
「仕事が忙しくて昼食をとる暇もない。」という方々はCA州の食事時間、休憩時間についての法律をご存知だろうか?
CA州労働法によると、ノン・エグゼンプト従業員(残業手当対象の時間給)が5時間以上勤務する場合、雇用主は最低30分の食事時間を提供(provide)しなければならないと規定してある(但し、労働時間が6時間を越えない場合、雇用主と従業員双方の同意の上で食事時間を取り止めることができる)。また、1日3時間半以上労働する従業員は、4時間毎の労働に対し10分間の有給の休憩時間を保証されている。食事時間中や休憩時間中、従業員は、一切の業務から解放されなければならないが、もし適切に食事や休憩をとることができなかった場合、それぞれ1時間分の追加給与が支払われなければならない。
さて、過去数年間、前述の規定に拘らず不当に昼食時間や休憩時間が認めらなかったとして、雇用主を相手どった集団訴訟が増えている。今回の判例では、休憩、食事時間を提供(provide)する上で、どこまで雇用主の責任が追求されるかが争われた。つまり、従業員が30分の昼食時間を実際にとっているか否かを確認する雇用主の監督責任があるか否かが争点の一つとなったのである。
<CA州最高裁の判決>
2012年4月12日、各紙はこぞって、Brinker裁判に関する州最高裁の判決を報じ、雇用主は、CA州労働法を遵守して従業員に休憩、食事時間を提供する必要があるが、従業員が休憩、食事時間を取るのを強制したり、実際に休憩しているかを確認する監督義務はないとした。
<背景>
被告であるBrinker International社は、「Chili’s」や「Maggiano’s Little Italy」等のレストランチェーンの親会社で、1975年に設立された。世界中に1,500店舗、従業員77,100人余りを擁し、年間売り上げは20億米ドルを超える超大手である。2002年、CA州労働基準監督局(DLSE)は、昼食時間、休憩時間に関する労働法違反の疑いでBrinkerを調査した結果、Brinker社は、事実を認めなかったもののDLSEと$10Mで和解した。
2004年、原告の5人のノン・エグゼンプト従業員達は、雇用主が昼食時間、休憩時間を否定したとして集団訴訟を提訴。第一審では60,000人の従業員を代表する集団訴訟が認められたが、上訴審では従業員全員を対象とした一定の社内方針や慣習が特に認められないとし集団訴訟が一部無効とされた。2008年以来、CA州最高裁が審議に入り、各方面からその判決が注目されていた。
<フレキシブルな休憩・食事時間>
CA州労働法では、雇用主は休憩や食事時間を「provide」すべき、という表現をしており、この言葉が、さまざまな解釈を生み出してきた。従業員が休憩や食事時間を取っているかをどこまで監督すべきなのか、1日の中で仕事の忙しい時間帯をずらして休憩や食事時間を取らせることは可能なのか?といった点で、多くの経営者が頭を悩ませてきたのが事実である。今回の判決では、それらの疑問に対し、殆どの面では雇用主側に朗報となりえる回答が提示されている。例えば、Brinker側が従業員に提供していた「early lunching」(始業後すぐに食事をとらせる)が、法律違反ではないと認められており、休憩や食事時間のタイミングに関しては(あくまで一定の範囲内でだが)フレキシブルな対応が可能という判決となった。
<Summit Logistics裁判との比較>
同じくCA州にて休憩・食事に関して争われた、他の裁判と比較してみよう。今回とは対照的に従業員側の圧倒的勝利に終わった2005年のSummit Logisticsの裁判では、法令で定められた時間内に休憩や食事時間を自由にとれるような職場環境が成立していなかったため、休憩や食事時間を「provide」しておらず、する意思もなかったと見なされたことが判決の決め手となった。(このケース以降、休憩・食事時間に関する訴訟が急増した、という見解もある。)一方、2011年のTenet Health Care裁判では、雇用主側の責任は、「従業員が法令で定められた休憩・食事時間を取れる職場環境を作る」ことのみであり、休憩・食事時間の強制にはない、という判決が出ている。
<今後予想される反応>
現在殆どの会社では、社内規定等で半強制的な「休憩・食事時間」を採用しているのが事実であるが、多くの専門家は、今回の判決を受けての社内規定改訂には慎重に行なうようにと警告を発している。休憩・食事時間を急に(ある意味)自由化して、結果として従業員に対する「provide」が行われていない、と看做される危険性を冒すよりは、半強制的な「provide」策がより安全というわけである。こと労働法の遵守に関しては、「過ぎたるは及ばざるに勝る」が、カリフォルニア州の雇用主に求められる姿勢のようだ。
本記事の内容は、一般的事実を述べているだけであり、特定の状況に対する法的アドバイスではなく、それを意図したものでもない。個々の状況に対しての法的アドバイスは、直接当事務所にご連絡頂くか、専門の弁護士にご相談されることをお勧めする。
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