News & Events

~Wage Theft~

Wage Theftという言葉をご存知だろうか。直訳すると「給料泥棒」だが、この言葉が日本語では給与に見合う働きをしない従業員に対する隠語であるのに対して、アメリカでは、従業員が受け取るべき給与の一部或いは全部を支払わない行為及びそのような雇用主を指している。残業手当の未払い、離職時に最後の給与又は蓄積された有給休暇を支払わない、条例で定められた最低賃金を支払わない等、Wage Theftと看做される形態は様々である。雇用主が給与を支払わないイコール、政府の源泉徴収等の税収ロスに結びつくため、Wage Theftを取り巻く法的環境は現在進行形で厳しさを増している。

<Wage Theft Protection Act of 2011>

カリフォルニア州では、ジェリー・ブラウン知事が法案AB469 (Chapter 655, Statutes of 2011)に署名し、いわゆるWage Theft Protection Act of 2011(2011年給料泥棒防止法)が2012年1月1日より施行され、Wage Theftに対するこれまでの罰則規定が更に厳しくなった。具体的には、以下のような規定が追加された。裁判所の最終判決後も定められた支払を意図的に行わない場合は刑法に触れると看做す、新規のノンエグゼンプト従業員に対しては雇用の時点で「New Hire Notice(給与及び労災に関する採用時の通知)」を交付する(従来の掲示板への一般的な情報に関する張り紙では不十分)、調停が必要になった場合は従業員の弁護士費用・給与回収費用を雇用主が負担する、等が主な新規定である。

この法令で新たに交付が義務付けられた、雇用主から新規ノンエグゼンプト従業員への「New Hire Notice」は、普段雇用主と従業員間で業務伝達に使用されている言語で無ければならない。州政府のウェブサイトには、数ヶ国語による見本フォームが付いている。フォームの内容は発効から数回更新されており、一番最近の更新は5月4日で、更新内容は以下を含む。

1)通達は、書面でも口頭でもどちらでもよい。

2)派遣の場合は、派遣元だけが通達を行えばよい。

3)残業代は、計算率だけでなく、具体的な金額を記入のこと。

4)従業員による受領サインは、任意である。

<過去の判例>

関連訴訟数は、ここ数年うなぎのぼりであった。身近なところでは、サンフランシスコ市リッチモンド地区のベトナムレストラン「Pho Clement」と、その姉妹店「Pho Clement 2」が、残業代及び最低賃金にからむ問題で元従業員8人のグループから訴えられ、2012年の初めには未払い額に応じて各原告に$17,432から$85,114を支払よう判決が下された。これは合計で約$316,000にものぼる賠償金となった。

テキサス州では、学校区関連の工事を数多く請け負っていたFort Bend Mechanical (FBM)が、給与未払いで2011年から2012年にかけ複数のサブコントラクターから訴えられ、同じく高額の賠償金支払を命じられている。Wage Theftとは無関係だが、元々小さな会社だったFBMが、近年学校施設関連の工事を多く手がけるようになり急成長した背景には、教育委員会の特定役員との金銭的・政治的な密着(特に選挙活動への献金)があったらしいことも発覚した。これは厳密には違法ではないが、モラル上好ましくないとして各方面で取り上げられ、献金を受けた内1人は、政治献金の未申告で訴えられている。

サンフランシスコ市ミッション地区に本店を構え、州内に数店舗を抱えていたオーガニック・ヴィーガンレストランCafé Gratitudeは、2011年末から元従業員2名にそれぞれチッププーリング(受け取ったチップを1箇所に集め、その後全員で分配する)の規定に違反したと告訴され、総計で$800,000にもなる高額な賠償金を求める訴訟を起こされた。最終的には原告との和解に至ったが、弁護費用を理由に一時は全店閉店の騒ぎになり、実際に本店を含めた数店舗は閉店している。

<望ましい対応>

Wage Theft Protection Actの施行が、カリフォルニア州の判例に今後どのような影響を与えるかはまだ未知数である。いずれにせよWage Theftによる訴訟は、敗訴した際には、もともとの未払額をはるかに超える支払が待っていることになるし、最終的に敗訴しなくともパブリック・イメージの損傷につながり、会社の致命傷になりかねない。常に最新の法令をチェックし、万が一の場合に備えて、「渇して井を穿つ」事態を避けるようにしたいものだ。

本記事の内容は、一般的事実を述べているだけであり、特定の状況に対する法的アドバイスではなく、それを意図したものでもない。個々の状況に対しての法的アドバイスは、直接当事務所にご連絡頂くか、専門の弁護士にご相談されることをお勧めする。

J weekly・ https://jweeklyusa.com/

Go Back