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~グループ企業の管理~

「子を持てば七十五度泣く」とは、子を持つ親の心労を見事に言い表す諺だが、それが会社同士の親子関係である場合、親会社がどこまで子会社の不始末の責任を負うかというのは、経営者であれば誰もが疑問に思うところであろう。今回は、米国の労働基準法と環境保護法違反にからんで、親会社の責任の有無を争った判例から見て行こう。

FLSA (Fair Labor Standard Act)は1938年に草稿され、第2次世界大戦のために全面施行が延期されたものの、1949年から施行された連邦レベルのいわゆる公正労働基準法で、最低賃金、残業代、最大就業時間数、記録の保持、児童就業の規制等を主な内容とする。最低賃金に関しては適時見直しが行われており、現行の連邦最低賃金は$7.25である。ご存知の通り、各州や市にも少なくともFLSA基準以上の最低賃金基準が設定されており、最も労働者に有利な賃金が適用されることになる。

<誤分類による残業代未払>

2007年12月より、Enterprise-Rent-A-Car Companyの元社員数名が、Enterprise-Rent-A-Car Companyを相手取って残業代の未払いと社員の誤分類に関する訴訟を起こし、2009年からは集団訴訟となった。原告の申し立て内容は、実際は顧客に車のレンタルサービスを行う窓口業務なのに、「アシスタントマネージャー」というあたかも管理職を思わせる役職名を付けられ、残業代の付かないエグゼンプト扱いにされていた、というものである。

この訴訟において原告は、親会社であるEnterprise Holdings, Inc.に対しても共同経営者としての責任を問い、Enterprise Holdings, Inc.は、親会社であり、管理サポート(人事、福利厚生等)を提供しているからといって即共同経営者ではないと反駁して、親会社の責任の有無が控訴審で争われる形となった。2012年6月28日、控訴審が終結。デラウェア、ニュージャージー、ペンシルベニアを管轄する第三巡回裁判所の控訴審は、親会社の子会社に対する関与の度合いを測る物差しとして以下の点を考慮した。

  • 採用・解雇に関する権限
  • 給与・福利厚生を含む雇用条件の決定権
  • 日々の業務に関する関与の度合
  • 従業員ファイルの実際の管理権

法廷は、これらの点を考慮した結果、第一審の判決を支持しこの親会社はEnterprise-Rent-A-Car Companyの共同経営者というより、むしろコンサルタント的な役割をしているに過ぎないとして、連帯責任を否定した。

<環境汚染に対する親会社の責任>

一方では、子会社の起こした環境汚染に対し、親会社がCERCLA(Comprehensive Environmental Response, Compensation and Liability Act of 1980、包括的環境対処補償責任法)に基づき責任ありとされた判例もある。1998年米最高裁は、詐欺的行為と見なされない限り、会社法で認められている株主の有限責任を一般的に認めながらも、100%所有の子会社である生産施設から出た有害廃棄物による環境汚染に関して、親会社の責任も追及される場合もあるとした。親会社のBest Foods Inc. が実質上の生産施設運営者であったと判断されたのが理由だが、最高裁は、「親が実質上運営者と看做される」次の3つの状況を挙げている。

  • 子会社、もしくは合弁事業参加者の代わりに親会社が汚染を行なう施設の運営に直接責任を有する。
  • 親会社・子会社両方の役員や執行委員を兼任する個人が、親会社に所属した立場のままで施設を運営する。
  • 親会社のみに所属する個人が、子会社施設の管理や指揮を行っている。

<グループ企業の管理>

グループ企業内では執行役員の重複等がよく見られるが、共同経営者としての責任の如何を問う判例を見てゆくと、重要視されるポイントはむしろ、従業員及び日々の業務への管理と関与の度合いといった実質上の支配力である。つまり、親会社が、子会社の雇用や経営に著しい管理力を及ぼす場合、親会社は、株主としての有限責任の適用を受けない場合があるので、注意が必要である。

本記事の内容は、一般的事実を述べているだけであり、特定の状況に対する法的アドバイスではなく、それを意図したものでもない。個々の状況に対しての法的アドバイスは、直接当事務所にご連絡頂くか、専門の弁護士にご相談されることをお勧めする。

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