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~WHDの積極的な動き~

前回と前々回はEEOC(平等雇用機会委員会)に関してお話したが、今回はDOL (Department of Labor/労働省)の内部部局であるWHD(Wage and Hour Division/賃金・労働基準管理部局)に焦点を当てたい。WHDは1938年にニューディール政策の一環として施行されたFLSA(Fair Labor Standard Act/公正労働基準法)に基づいて設定された。FLSAは、州をまたぐ商業に従事している雇用主や従業員を対象とし、最低賃金や残業手当、未成年の労働などについて規程している。米国では、連邦及び州レベルで提起される集団訴訟の90%がWHDがらみの訴訟請求だと言われており、WHDに期待される役割は大きい。しかし、WHDは、最近までほとんど目立たない存在で、その実質的な活動はごく限られていたのが実情であった。それが近年積極的に調査と未払い賃金の回収活動を開始したのは何故だろうか?背景を以下に説明しよう。

<2009年の再編成>

2008年後半から2009年初頭にかけ、連邦議会の付属調査機関であるGAO (Government Accountability Office/政府監査院) が、かねてから案件処理の遅延と処理ミスが指摘されていたWHDの実態調査及び分析評価を行い、2009年6月に調査報告書を発表した。結果は散々で、GAOがテスト用に申し立てた10件の架空案件中、9件が処理に問題ありとされ、うち5件はWHDのデータベースにすら入力されていない有様であった。

GAOの調査結果を受けて、早速組織改革が行なわれた。2009年11月にはそれまで労働省の最大部署であり、WHDを含む4部局を統括していたESA (Employment Standards Administration、労働基準局) が解散され、各部局は労働省長官の直轄となった。

同時に多額の予算も得て、2009年には250人の調査官を新たに採用し、2011年には調査官の数は1000人を超えた。それまでの調査官数は731人であったから、およそ40%の増員である。増員により積極的な調査と未払い賃金回収活動を開始した結果、2011年度の回収額は、史上最高の$224,844,870であった。

<査定のポイント>

前述のようにWHDの組織が再編成され、調査官が桁違いに増えた結果、職場にWHDの調査が入る可能性が大幅に増えたことになる。多くの場合、従業員(あるいは元従業員)による苦情通知が査定の発端となるが、そうでない場合もある。従業員による通知があった場合、WHD調査官は、通知者を保護する目的で査定の理由を雇用主に明かさないのが通常である。調査官が予告なしで職場を訪問する場合も多い為、WHDが調査対象としている次のポイントに日頃から注意を払い、いざという時に慌てないようにしたい。

  • 各従業員の正確な勤務記録の保持。
  • 勤務記録に沿った正確な給与支払(残業代を含む)。
  • 最低賃金法の遵守。
  • 実態に沿った労働者区分(エグゼンプト、ノンエグゼンプト、IC《インデペンデントコントラクター》など)。

また、社員への口止め行為や、調査に協力したり苦情を提出したと思われる社員に対する報復行為は、違法とみなされより事態を悪化させるのでくれぐれも回避したい。

<損害賠償>

さて、査定の結果時間対賃金に問題ありとされた場合、WHDが査定した未払い額の支払に加えてLiquidated Damages (損害賠償金)の支払も義務付けられる場合が多い。通常この賠償金は未払い賃金分と同額とされる為、実質的に未払い額とみなされた2倍の金額を支払うこととなる。

また、WHDはその回収結果を頻繁に会社の実名入りでメディアに公表する為、会社の世評に傷が付くことも充分ありえる。

<州レベル・郡や市レベルでの処理>

更にこのような紆余曲折を経てWHDと和解しても、次は州レベル或いは郡・市のレベルで苦情を提起される可能性が残っている。政府機関から派遣されているとはいえ、WHD調査官が常に正しいとは限らず、査定結果を鵜呑みにする必要はないが、和解せずに上訴手続きを行うと多額の訴訟費用がかかるので、事前の予防対策を練ることが重要である。万が一、査定の対象となったらすぐに専門の弁護士に相談して、会社の金銭的・風評的損害を最小限にとどめることが重要である。

来月は、DOLの2013年の動きに関してお話しする。

本記事の内容は、一般的事実を述べているだけであり、特定の状況に対する法的アドバイスではなく、それを意図したものでもない。個々の状況に対しての法的アドバイスは、直接当事務所にご連絡頂くか、専門の弁護士にご相談されることをお勧めする。

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