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~無償インターンの見えないリスク~

アカデミー主演女優賞受賞映画「ブラック・スワン」、PBSの人気番組「Charlie Rose」、女性向けファッション雑誌の大御所「ハーパース・バザー」には、一つの共通点がある。実は、2011年から2012年にかけて3つとも無報酬で採用していた元インターンから労働法違反の集団訴訟を受け、被告になっているのだ。ここ数年、元インターンが雇用主を訴える現象が「野火が広がる如く」続いている。訴訟が継続中のものもあるが、「Charlie Rose」の場合は、Charlie Rose氏と製作会社は2006年から2012年に採用した元インターン189人に対し合計$250,000の和解金を支払うことで合意している。これまで採用先との関係を損なうことを恐れ苦情を申し出るインターン生が少なかったのが実情だが、労働省が違反行為を行う雇用主の査察に力を入れ始めた結果がこれらの訴訟の原因となっていることも否めない。

<インターンを採用する6つの条件>

まず、何気なく使っている「インターン」という言葉について考察してみよう。米国の労働基準法(Fair Labor Standards Act)では、営利目的の私企業が提供する無報酬のインターンシップ或いは訓練プログラムについて明確な基準が確立されていなかったため、2010年に労働省が指針を発表し、無償のインターン・プログラムは、以下の6つの条件を満たしている必要があると立場を明確にした。従って、これらのすべての条件を満たしていない無償のプログラムは、「違法」と判断される可能性があるので注意されたい。

1)インターンシップが(雇用主の実際の事業現場に於ける実際の作業を含むものであっても)教育的環境で提供されるトレーニングに類するものであること。

2)プログラム体験が、インターン生に有益であること。

3)インターンを従業員の代替とするのではなく、既にいるスタッフの監督下に配属すること。

4)雇用主は、インターン生の活動により直接の利益を得ないこと。

5)インターンシップを終了した時点で、インターン生の就職が約束されていないこと。

6))雇用主とインターン生双方が、インターンシップに費やされた時間は無給であると合意していること。

<インターン生の誤分類>

前述の訴訟における元インターン生達の主張は共通している。インターンシップの内容を鑑みると実際は従業員であったにもかかわらず、雇用主は、彼らを「インターン生」として誤分類し、最低賃金法を初めとする諸労働基準法に違反した、とするものである。例えば前述の「ブラック・スワン」の元インターン生の1人は、制作元のFox Searchlightに於いて少なくとも週40時間のペースで、個人ファイルのレビュー、タイムシートの作成、発注書とすりあわせるスプレッドシートの作成といった事務作業を行なっていた。この元インターン生達の弁護士をつとめるOutten & Golden 法律事務所のElizabeth Hartley Wagoner氏は、「例え学生がそれで学校の単位を取得できるとしても、雇用主はインターン生を『無償の労働力』として使ってはいけない」と警告する。同氏はこう続ける。「インターン生が雇用主のために調査、報告書の作成、ファイリングなどの作業を行なった場合、雇用主は少なくとも最低賃金を支払うべきである。」

<雇用主として知っておくべきこと>

The National Association of Colleges and Employers (全米大学・雇用主協会)が2012年に行なった調査によれば、卒業を控えたシニア(大学4年生)の55パーセントが大学在学中に何らかのインターンを経験しており、それらのインターン生のうち47パーセントは無給であった。特に、学生の憧れの的である映画・テレビ・出版を初めとするメディア業界は、人脈と経験を得ようと応募者が殺到する為、無償のインターンシップがほぼ慣例化しており、「彼らなしでは業界自体が成立しないのでは?」と危ぶむ声すらある。しかし一連の訴訟で、いかなる業界もインターンシップの規定を逃れる「聖域」となりえないことが明らかとなった。夏休みシーズンを控え、インターンの採用を考慮されている雇用主の方も多いと思うが、専門家のアドバイスを受けながら社内のインターンシップ・プログラムが前述の6つの条件を満たしているか否かを確認した上で採用を行い、足元をすくわれないようくれぐれも注意されたい。

本記事の内容は、一般的事実を述べているだけであり、特定の状況に対する法的アドバイスではなく、それを意図したものでもない。個々の状況に対しての法的アドバイスは、直接当事務所にご連絡頂くか、専門の弁護士にご相談されることをお勧めする。

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