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~ENDA~

米国の法案の中には、長年に渡って繰り返し提出されながらも、なかなか議会を通過しないものがある。公民権法7編(雇用上の差別を禁止したいわゆる「タイトル・セブン」)においてProtected Classes (差別禁止カテゴリー)として定義されている人種、肌の色、宗教、性別、及び出身国にsexual orientation(性的指向)とgender identity(性同一性)を加えるENDA (Employment Non Discrimination Act) もその一つだ。実質的にはLGBT(女性の同性愛者、男性の同性愛者、バイセクシャル、トランスセクシャル)への雇用上の差別を禁止する同法案は、1994年以降幾度かに亘って提出されているのだが、その度に上院や下院司法委員会等でひっかかり、未だに可決に至っていない。しかし、2013年の第113議会で10度目の提案がなされ、11月7日にようやく上院が可決したのである。しかしながら、今後下院で可決されるかどうかは再び微妙な線だ。しかし法としていよいよ正式に成立するか否かに関わらず、雇用主がENDAを気にするべき理由がある。それは、EEOC(平等雇用機会委員会)が2012年に採用したStrategic Enforcement Plan の存在だ。

<Strategic Enforcement Planによるタイトルセブンの解釈>

Strategic Enforcement Planは、EEOCが法の解釈を行う上での見解をまとめたものであり、それによるとタイトルセブンに於ける「性別に基づく雇用差別の禁止」を拡大して解釈していることに注目しよう。EEOCによれば、タイトルセブンにおける「性」には、sexual orientation(性的指向)とgender identity(性同一性)も含まれるのだ。これはEEOCのウェブサイトでもはっきり謳われており、同委員会の強い信念が感じられる。

このEEOCの方向性を支持する判例も少なくない。2009年のProwel v. Wise Business Forms, Inc.では、工場勤務を解雇された同性愛者の男性が、いわゆる「男らしく」ない身なりや生活態度の自分に対するgender stereotyping(性別に関する固定観念)による差別で、タイトルセブン違反であるとして元の職場を起訴し、第一審で敗訴したものの、控訴審はその判決を覆し訴状を認められている。

また、2011年のGlenn v. Brumbyでは、トランスジェンダーの従業員が、同じくgender stereotyping(性別に関する固定観念)による雇用差別で勝訴している。(ハロウィンに女性の衣服を着て上司から咎めを受けたことが起訴内容の一部となっているところがアメリカらしい。)

<ベイエリアの事情>

Strategic Enforcement Planに併せて、カリフォルニア州やサンフランシスコ市をはじめとする幾つかの州や市では、独自の法令により性的指向や性同一性を理由にした差別を禁止している。しかしながら、連邦法であるタイトルセブンがそれらを明文化していないため、米国内の住む場所や職場によって対応が異なっているのが現状だ。それを全国的に統一しようという動きがENDAなのだが、「訴訟数をいたずらに増やし、中小企業の負担になる」等の反論を乗り越えられるかはまだわからない。しかし、EEOCの解釈を支持する判例は今後も増えることはあっても減ることはないと予想され、ENDAは「明文化されない法」として事実上の存在を認識される方向へ着実に歩を進めている。

人種・思想ともバラエティに富む人材が強みであるベイエリアで事業を行なう雇用主は、既にENDA対応が十分である場合も多いかもしれない。が、今一度社内規則や従業員ハンドブックを見直して、万全の体制を固めておきたい。

本記事の内容は、一般的事実を述べているだけであり、特定の状況に対する法的アドバイスではなく、それを意図したものでもない。個々の状況に対しての法的アドバイスは、直接当事務所にご連絡頂くか、専門の弁護士にご相談されることをお勧めする。

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