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~カリフォルニア州の雇用主の新たなハードル~ “Avoid BOYD?”

「BYOD」という表現をご存知であろうか?「Bring Your Own Device」の略で、従業員の個人デバイスを業務目的に使用することを認める雇用主のポリシーを指し、最近主流になりつつある。Forbesの2012年5月2日の記事では、米国雇用主の74%がBYODを採用していると報告しているので、現在では8割を超えていると予想される。個人用のスマートフォンやラップトップなどのデバイスの普及率が高まる中、仕事においても自分のデバイスを使う方が効率が良く、雇用主のコスト削減にも繋がるため、BYODのポリシーを採用するケースが増えているのは事実である。しかし、良いことずくめではない。今年の8月12日、カリフォルニア州控訴裁判所は、従業員が個人用携帯を業務目的で使用を義務付けれている場合、雇用主は、そのコストを当該従業員に払い戻さなければならないとする判決を下したのである。以下にその判例について説明しよう。

<判例>

Colin Cochran氏は、食品デリバリ・サービスを提供するSchwan’s Home Service(以降「会社」という)でコンスーマー・サービス・マネジャーとして勤務していた。Cochran氏や他のコンスーマー・サービス・マネジャー達は、業務を行なうために自分達の携帯を使用しなければならなかった。しかし、会社側は、携帯料金の払い戻しを拒否したため、Cochran氏は、他のコンスーマー・サービス・マネジャーとともに同社を相手取り集団訴訟を提起した。原告側は、カリフォルニア州労働法第2802条に基づき、会社側が従業員に対する携帯料金の払い戻しを義務付けられていると主張した。

カリフォルニア州労働法第2802条は、「従業員が職務を遂行した結果、負担した全ての必要な経費又は出費」について、雇用主が従業員に払い戻ししなければならないと規定している。

第一審において会社側は、コンスーマー・サービス・マネジャーの一人一人の状況がまちまちであるため、集団訴訟に該当しないとし、更に何人かのマネジャーは、通話時間無制限のプランに加入していたり、家族の携帯プランに加入していたため、本人の出費がなかった場合もあると指摘した。第一審の判事は、被告側の主張を支持し当該案件は集団訴訟に該当せず、第2802条に基づく雇用主の払い戻し義務は、実際に従業員が出費を強いられていなければならないとした。

しかし、控訴審は、第一審の労働法第2802条に関する判決は、法的前提を誤っていると指摘した。つまり、第2802条に基づく雇用主の払い戻し義務を証明するためには、従業員が実際に携帯料金の出費を強いられた否かは関係なく、自分達の携帯を業務用に使用することを余技無くされ、雇用主が払い戻しをしていないという事実のみで十分であるとしたのである。控訴審によると、第2802条の主旨は、従業員への実費の払い戻しだけでなく、雇用主が事業コストを従業員に転嫁することを阻止することにもあると説明した。

しかし、控訴審は、従業員への払い戻し額の算出方法については触れておらず、カリフォルニアの雇用主に対して明確な方向性を示すには至らなかった。

【考察】

BOYDは、労使間双方で都合の良いポリシーに見えるものの、雇用主は、従業員への適切な額の払い戻しの規定などを含む、明確な社内ポリシーを作成することが重要である。更に、個人デバイスから会社のサーバーへのアクセスを認める場合は、秘密情報の漏洩やハッキング等のリスクもあることを十分認識し防止策を事前に打ち立てる必要があることも言い添えたい。

本記事の内容は、一般的事実を述べているだけであり、特定の状況に対する法的アドバイスではなく、それを意図したものでもない。個々の状況に対しての法的アドバイスは、直接当事務所にご連絡頂くか、専門の弁護士にご相談されることをお勧めする。

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