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~賃金の支払いはどこまで?~ クロック・アウトした後の持ち物検査にかかる時間

時間給のノン・エグゼンプト従業員は、職務に従事したすべての時間に対して報酬を受ける権利があるのはご存知であろう。しかし、どこまでが職務であり、どこから自由時間として見なせば良いのだろうか?朝、出勤して作業服に着替える時間は、その作業服が職務遂行に必要な場合は、報酬の対象となるのが通常である。それでは、終業後の持ち物検査の時間はどうであろうか?

<判例>

2014年12月9日、米最高裁判所は、雇用主が従業員に義務付けている勤務終了後の持ち物検査にかかる時間は、公正労働基準法(Fair Labor Standard Act:以降「FLSA」)において、給与の対象とはならないとの判決を全員一致で下した。このIntegrity Staffing Solutions, Inc. v. Buskの訴訟において、当初、最高裁の保守派とリベラル派の判事で意見が分かれるであろうと予想されていたため異例な判決であった。

Amazonへ人材派遣を行っているIntegrity Staffing Solutions, Inc.(「雇用主」)は、商品搬送のための梱包作業を行う派遣従業員に対し、タイムカードをクロック・アウトした後、職場での盗難を防止するためにセキュリティー・チェックを通過するよう義務付けていた。時間給の従業員達は、その順番待ちや持ち物検査にかかる追加の時間(最長25分)に対して賃金の支払いを受ける権利があるとして、雇用主を相手取って集団訴訟を提起していた。

第一審のネバダ地区連邦地方裁判所が、従業員の集団訴訟を却下した後、原告は、第9巡回区連邦控訴裁判所に控訴した。控訴裁判所は、第一審の判決を覆し、セキュリティー・チェックは、従業員の主要な職務の一部であり必要なもの、更に雇用主の利益のために義務付けられているものであるため、給与の対象となると判決を下した。

これを受け、最高裁に上告した雇用主側は、最高裁判事の前の口頭弁論において、職務の前後に使用される時間は、主要な職務の一部でもなく、必要不可欠な作業でもないため、報酬の対象とはならないと主張した。一方、従業員側は、セキュリティー・チェックは従業員の職務の重要な部分であり、それが「主要職務内容の一部でかつ必要不可欠」であるか否かの分析は必要ないと反論した。

判事トーマスは、FLSAが「生産的な職務の遂行」の「一部でかつ必要不可欠」な時間に対して報酬を支払うことを義務付けていることを説明した。同判事は、仮に雇用主がセキュリティー・チェックを廃止したとしても、従業員の主要職務には影響を与えないため、セキュリティー・チェックにかかる時間は従業員の主要職務に当たらないとした。従って、セキュリティー・チェックにかかる時間は報酬の対象とはならないと結論づけたのである。

【考察】

ノン・エグゼンプト従業員の正当な実務時間に対する未払い賃金があった場合、その法的リスクは大きく、未払い賃金以外にもペナルティーや法的費用がかさばるため、雇用主はできるだけこのような状況が起こらないよう細心の注意が必要である。始業前、終業後の作業が実際に主要な職務か否かについては、業種や個々の状況によって異なるため、専門家のアドバイスを仰ぐことをお勧めする。特に職場に新たなルールを導入する場合は、生産性やセキュリティーのみならず、法的リスクも考慮すべきであることは言うまでも無い。

本記事の内容は、一般的事実を述べているだけであり、特定の状況に対する法的アドバイスではなく、それを意図したものでもない。個々の状況に対しての法的アドバイスは、直接当事務所にご連絡頂くか、専門の弁護士にご相談されることをお勧めする。

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