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~Uber とドライバー:和解への道のり~

昨年9月25日発行の本紙、第47回「従業員か?インデペンデント・コントラクター(独立請負業者)か?誤区分による雇用主のリスク」の記事で取り上げた、携帯アプリを利用して配車サービスを提供するウーバー・テクノロジーズ社(Uber Technologies, Inc.、以下「Uber」)を相手取り、カリフォルニア州とマサチューセッツ州のUber ドライバー(以下「ドライバー」)が雇用形態をめぐり訴えていた集団訴訟(Douglas O’Connor他 v. Uber)で、先月、雇用形態の誤区分を争う分野では過去最高額である1億ドルの支払いを伴う和解が成立した。この和解によりドライバーは、引き続きインデペンデント・コントラクターとして扱われるものの、労働条件の改善が可能になる。契約ドライバーが従業員と判断されれば、Uber は、従業員のソーシャルセキュリティーやメディケア、失業保険などの雇用主側の負担分、経費の還付、法定最低賃金や残業手当規程の遵守等のコスト増大を余儀なくされるため、625億ドルの企業価値を持つUberにとっては安い買い物なのかもしれない。僅か過去6年で世界的に広まったUberがこの危機をどう切り抜けたのかを探ってみよう。

<裁判の経緯>

通常の従業員のように所定の労働時間に制限されずに、フリーランス・ドライバーとして自分の都合に応じて一日1時間でも2時間でも好きな時間に稼ぐことができるとして、Uberは、2009年にドライバーと乗客をつなげるプラットフォーム提供サービスを開始した。しかし、2013年、4人のドライバーらは、カリフォルニア州の16万人のドライバーを代表し、自分たちは、本来は従業員であるとして、同州労働法に規定するガソリン代や車のメンテナンス等の経費の還付を求めるとともに、「チップは料金に含まれている」とUber が乗客に明示しているにも関わらずチップの返還がなされていないことを不服として集団訴訟の申立を起こした。2015年9月、カリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所のエドワード・チェン判事は、原告らの申立は、集団訴訟の要件である共通性がみられるとして集団訴訟として争うことを認めた。但し、当事者間の紛争は訴訟手続きによらず仲裁手続きを採用するとした仲裁規定に合意をしたドライバーを除外したため、集団訴訟の対象は一旦は1万5千人に減らされた。ところが、2015年12月にチェン判事がその判断を改め、再び16万人に膨れ上がったのである。既に、バーウィック氏というドライバーが、カリフォルニア州労働省長官に申し立てを行った別の訴訟で、バーウィック氏は従業員とみなされ、Uberは、同州労働法2802条に基づいた経費の還付(約$4,152)を同氏に行うよう命じられていたことから(同訴訟は、Uberが控訴中)、Uber は集団訴訟に大きな危機感を抱いていたに違いない。

ちなみにこの集団訴訟は、今年の6月に審理が予定され、陪審員が、カリフォルニア州最高裁の1989年の判例(S.G. Borello & Sons, Inc.)で用いた判断基準「当人が仕事の監督権をどの程度持っているか?」及び下記11の判断基準に従って、従業員かインデペンデント・コントラクターかを判断する予定であった。①役務を提供している当人は、事業主とは全く違う業種のビジネスに従事しているか?②その仕事内容は、事業主の通常のビジネスの一部か?③仕事のための手段、道具、場所を提供したのは、労働者か、又は事業主か?④その仕事のために必要とされる道具や材料への投資は誰が行ったか?⑤その仕事には特別なスキルが必要か?⑥その仕事は、通常その分野では雇用主の指示のもとに行われるものか、又は監督なくスペシャリストにより行われるものか?⑦当人の管理力が、自らの利益や損失に影響を与えるか?⑧役務を提供する時間/期間は、採用された仕事内容を完了するために妥当か?⑨雇用者と労働者の関係は恒久的か一時的か?⑩支払い方法は時間毎か、又はプロジェクト毎か?⑪両当事者が「雇用主と従業員」の雇用関係を築いているという主観的要素は、雇用関係の有無の判断に対して決定的ではなく、前述のような客観的な基準によって導かれるべきである。

<2016年4月和解が成立>

Uberにすれば、裁判の長期化が危惧される上、労働者側の肩をもつ傾向にある陪審員がドライバーの主張に同調し従業者と認定すれば、過去の経費や未払い賃金、チップ、並びに罰金を含めると8億5千万ドルもの支払いを義務づけられる可能性との駆け引きであった。一方で、集団訴訟認定に関するチェン判事の判断が控訴審で争われることになり、大勢のドライバーにとっても集団訴訟を継続できない可能性が出てきた。そこで両当事者は、マサチューセッツ州で係争中の同様の訴訟も併せ、38万5千人のドライバーを対象とした1億ドルの支払いを伴う下記の和解案に同意した。ドライバーは、インデペンデント・コントラクターとしての地位を継続する代わりに、①運転したマイレージに応じたガソリン代の還付を受ける、②乗客からチップを受け取ることができる、③組合ではないがドライバーで構成された「協会」を通じて4半期ごとにUber と労働条件について交渉ができる、④Uber がドライバーのアプリを無効化(実質的には解雇)するには、十分な理由があり一定の手続きを踏んだ場合に限られる、などほぼ従業員としての扱いに近い処遇を受けることになる。

<考察>

Uber は、この和解により二つの州でドライバーをインデペンデント・コントラクターにとどめておくことができた。しかし、インデペンデント・コントラクターか、従業員かという本来の問題は未解決のままであり、法律上の論点が解決されないうちは、Uber は、訴訟のリスクから逃れることはできないであろう。なお、本和解は、原告の一人が和解条件に反対しているというニュースも最近報道されており、今後の進展に注目したい。

本記事の内容は、一般的事実を述べているだけであり、特定の状況に対する法的アドバイスではなく、それを意図したものでもない。個々の状況に対しての法的アドバイスは、直接当事務所にご連絡頂くか、専門の弁護士にご相談されることをお勧めする。

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