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米国における契約の重要性 ~(2)契約を成立させる三要件~

「約束」を破ることは、太古の昔のアダムとイブの話に始まり、今日まで誰しもが、神との約束とは言わずとも様々な約束を破った経験がおありであろう。しかし、「契約」を破ったことがある方は稀かも知れない。そもそも約束と契約の基本的な違いは何だろうか。もし、約束を破られた場合、相手を提訴できるのだろうか。また、契約として見なされるためには、書面形式でなければならないのかなど、契約に関する定義を明確に把握できていないのが現状ではないだろうか。ここでは、米国の法制度下における契約の定義について考察してみよう。

米国法下では、契約は、「一つ又は一組の約束であり、その履行を怠った場合は法が救済措置を与え、またはその履行を法が何らかの形で義務として認めるもの」を言う。つまり、契約とは、法的に履行義務があり、不履行の場合は法的救済措置が認められる約束ということができる。

更に、契約は、当事者同士の間で結ばれる交換条件であり、契約と見なされるためには以下の三つの要件を満たすことが原則である。

  1. 一方の当事者による申し込み(Offer)
  2. 他方の当事者による承諾(Acceptance)
  3. 約因つまり対価(Consideration)

例えば、ある人(甲)が友人(乙)に対し、千ドル(約因)の支払いを約束してくれれば自分の車を売ってあげようと申し込み、これを乙が承諾する場合、契約として見なされることになる。これは書面である必要はなく、口頭の約束であっても法的に契約と見なされる。

この申し込みと承諾、約因の存在の有無が問われた著名な古い判例(Daniel Mills v. Seth Wyman)を紹介しよう。19世紀のマサチューセッツ州に住んでいた被告ワイマン氏には、息子がいた。その息子は、長い間航海で家をあけていたが、25歳のとき故郷に帰る決心をし、コネチカット州ハートフォード港についたが、突然病気になってしまった。原告であるミルズ氏が二週間看病したにもかかわらず、この息子は亡くなってしまった。ミルズ氏が、その旨を父親であるワイマン氏に手紙で知らせたところ、ワイマン氏は、早速返答を送り、お礼を述べるとともに自分の息子の看病にかかった費用を全額支払う旨を約束した。しかし、結局、ワイマン氏はその約束を果たさなかったために、ミルズ氏が提訴したというものである。

この裁判で争点となったのは、この約束が、申し込みと承諾、約因が存在する契約であるか否かであった。最終的な司法判断によると、ワイマン氏が看病にかかった費用を支払うことを約束した時点では、既にミルズ氏による履行は済んでおり、また同氏は、ワイマン氏による支払いを期待して看病を行った訳でもなかった。従って、両当事者の間には、申し込みと承諾に基づく約因が存在しないため、法的には契約ではないと判断したのである。

倫理的に考えると当然被告に非があるべきと判断しがちだが、法律的分析を行うための重要な判例と言える。

<考察>

例え書面による取決めが契約書の様相を呈していても、この三つの基本原則を確認することが必要である。契約書を作成する際は、専門の弁護士に相談することをお勧めする。

参考文献:樋口範雄 (2013)「はじめてのアメリカ法」有斐閣(p16, p84-85)

本記事の内容は、一般的事実を述べているだけであり、特定の状況に対する法的アドバイスではなく、それを意図したものでもない。個々の状況に対しての法的アドバイスは、直接当事務所にご連絡頂くか、専門の弁護士にご相談されることをお勧めする。

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