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M&A ~AT&TによるTime Warner買収案の行方~

今年の2月に入り、いくつかの買収案が座礁に乗り上げている。2018年2月8日、サンディエゴを拠点するQualcommは、Broadcomによる1,210億ドルの敵対的買収を拒否すると発表し、同年2月15日、米証券取引所は、中国系法人によるシカゴ証券取引所の2千万ドルの買収案を透明性に欠けるとして阻止した。しかし、2016年以来最も注目を集めているのは、AT&TによるTime Warnerの買収案であろう。今回は、同買収案に焦点を当ててみよう。

<米独占禁止法>

そもそも、米独占禁止法とは、消費者保護を第一目的として、公正な市場競争を推進するために連邦及び州レベルで施行された一連の法律を指し、通商の抑制、独占行為、価格差別、抱き合わせ販売、公正な市場競争を妨げる買収等を禁止している。そのうちの一つ、ハート・スコット・ロディノ法(Hart-Scott-Rodino Act)に基づいて取引額が8,440万ドルを超えるM&Aは、連邦取引委員会又は法務省の許可を得なければならず、違法と判断される場合は取引の中止や合併後の組織構成の見直しが要請される。

<AT&TによるTime Warnerの買収案とその経緯>

2016年10月22日のニューヨークタイムズ紙の報道によると、世界最大の電話会社であるAT&Tは、HBOやCNNを傘下にもつコンテンツ会社のTime Warnerを854億ドルで買収する意向を発表した。もし買収が認められれば世界最大のメディア会社になるため、バーモント州のサンダース上院議員は、当時、自らのツイッターアカウント@SenSandersで「料金の高騰につながり、消費者の選択肢が狭まる」とし、買収に対する反対意見を表明していた。同様にヒラリー・クリントン大統領候補やティム・ケーン副大統領候補も買収に懸念を表明していた。しかし、配信会社とコンテンツ提供会社の合併は、オバマ政権が許可したComcastによるNBCUniversalの買収など過去にも例があり、米政府はこれまで直接の競合会社同士でない限り買収を認めてきた経緯がある。

その後2017年1月20 日に就任したドナルド・トランプ大統領は、同年9月米司法省の反トラスト局長に当時ホワイトハウス法律顧問であったメイカン・デルラヒム氏を起用した。デルラヒム局長の監督の元、同局は、引き続きAT&TによるTime Warner買収案の審査を進めていた。

2017年11月20日、デルラヒム反トラスト局長は、AT&TによるTime Warnerの買収を阻止するため、ワシントンDC連邦地方裁判所において提訴に踏み切った。デルラヒム局長は、提訴の理由として、「同買収が消費者の選択肢を狭め、料金の高騰や新しいイノベーションの抑制につながる」とし、和解手続きには応じるものの、子会社の売却を考慮した組織変更が必要との声明を発表をした(ニューヨークタイムズ紙2017.11.20朝刊)。

これを受けて、2018年2月14日、AT&Tは、デルラヒム反トラスト局長を同社の証人として召喚することを法廷に要請した。つまり、今年3月19日から始まる審理手続きにおいて、AT&Tは、買収を阻止する目的で提訴した張本人であるデルラヒム局長に法廷でその立場を表明させることを強制しようとしているのである。この異例な手続きに加え、AT&Tは、ディスカバリ(情報開示要請)において反トラスト局とホワイトハウスとの通信記録の開示も要請していると報道されている(ニューヨークタイムズ紙2018.2.14朝刊)。

2016年当時、米大統領選の候補であったトランプ氏は、同氏に批判的な報道を行うCNNを「偽ニュース」と非難しており、2016年10月にAT&TのTime Warner買収案が報道された当時も、トランプ氏は「少人数に権力が集中するため、大統領に当選した暁には同買収を阻止する」と公言していた(ニューヨークタイムズ紙2016.10.22朝刊)。

本来、米司法省反トラスト局は、政治的な影響を受けずに独立した立場で判断を行うことが義務付けられている。デルラヒム局長は、ホワイトハウスの影響を一切否定しているものの、AT&TのCEOであるランドール・ステファン氏は、司法省の判断を疑う発言をしている(ニューヨークタイムズ紙2018.2.14朝刊)。

【考察】

実際に米司法省反トラスト局がトランプ政権による影響を受けず、公正な判断を行ったか否かについて、今後の審理の行方が注目される。

ここで扱う内容は、一般的事実であり、特定の状況に対する法的アドバイスではなくそれを意図したものでもない。

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