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カリフォルニア州のネット中立性へ挑戦状 ~連邦司法長官カリフォルニア州を提訴~

トランプ政権とカリフォルニア州との確執が更に広がりつつある。先月ご紹介した通り、オバマ政権下の米連邦通信委員会(FCC)が採用したインターネットの中立性(以下「ネット中立性」)の規制を、昨年末トランプ政権下のFCCが撤廃したことをきっかけに、2018年8月31日、カリフォルニア州議会が独自にネット中立性を義務付ける法案SB 822を可決した。立法には州知事の署名が必要であったが、期限ぎりぎりの2018年9月30日にJerry Brown州知事が署名したことにより、SB 822が正式に立法化された。しかし、その数時間内に、トランプ政権は、SB 822が憲法違反かつ連邦法違反であるとして、カリフォルニア州を相手取り、カリフォルニア東地区連邦地方裁判所に訴訟を提起した。今回は、この訴訟の背景と概要を追ってみよう。

<ネット中立性を巡る2つの考え方>

ネットが消費者の生活に浸透し始めてから未だ20年ほどしか経過していないが、ネットへのアクセスに関する政策をどう構築するかについて、意見が大きく二つに分かれている。消費者側の意見は、ネットは電気や水道、電話などの基本的な公共サービスと同様であり、利用者、コンテンツ、アプリ、サイトに拘わらず、すべての者が自由なアクセスと平等なサービスを受ける権利があるとする。これを達成するためには、意図的に特定のコンテンツやサイトへのアクセスを阻止したり遅らせたりすることや、追加料金を支払う利用者に対してより速いサービスを提供することを禁止する法規制が必要となる。消費者団体やFacebook、Google、Amazonなどのビジネスもネット中立性を支持している。

一方、アクセス速度やデータ量に応じた課金の自由化を求める通信事業者は、ネット中立性規制を採用することにより、技術革新が削がれ、投資家を遠ざけ、サービス・コストが上昇するという弊害を生むため、消費者の利便性にはつながらないとし、強硬に反対している。更に、トランプ大統領が指名したFCCのAjit Pai委員長は、ネット中立規制は、政府による「不要で有害」な市場介入であり自由競争を阻止するとし、例え規制が必要であっても、本来は米議会が立法すべきであると主張している。AT&TやVerizonなどの通信事業者は、ネット中立性に全面的に反対している。

<連邦法と州法の対立>

アメリカ合衆国は、そもそも1776年の建国時に、東部13州それぞれが一定の権利を有したまま、合意の上で共和制を導入して建国された。1787年に制定された合衆国憲法の第6章、第2項(通称「最高法規条項」という)では、合衆国憲法は、「国の最高法規」であり、「すべての州の裁判官は、州の憲法または法律に反対の定めがある場合でも、本憲法に拘束される」と連邦法の優位性を謳っている。しかし、憲法修正第10条は、「本憲法が合衆国に委任していない権限または州に対して禁止していない権限は、各々の州または国民に留保される」と明記してあり、しばしば連邦政府と州政府で管轄権が微妙な分野において訴訟が提起される。

<連邦政府の主張>

今回は、合衆国憲法の草稿者が考えもしなかった、インターネットが連邦の管轄なのか、州の管轄なのかを争う訴訟である。連邦司法長官であるJeff Sessionsは、インターネットは州政府ではなく連邦政府が管轄権を有するべきであり、「カリフォルニア州は極度で違法な州法を立法し、連邦政府の方針を妨害している」と発表した。連邦政府が提出した訴状では、SB 822は、「連邦法によって阻止され、合衆国憲法の最高法規条項を違反している」と主張する。更に、連邦通信法(The Communications Act)及び1996年の連邦電子通信法(The Telecommunications Act of 1996)は、米国内の通信において、「活発かつ競争力を持つ自由市場を維持するために合衆国のポリシーを規定するもの」であるが、インターネットは、オバマ政権が主張した「電信通信サービス(telecommunication service)」ではなく、「情報サービス(information service)」として定義されるべきであり、よって、同法の規制を免れるとしている。

<考察>

これから予定される審理において、両当事者の主張と最終的な司法判断がどのように下されるか、今後の成り行きに注目したい。

ここで扱う内容は、一般的事実であり、特定の状況に対する法的アドバイスではなくそれを意図したものでもない。

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