コロナ禍が企業にもたらした最大の変化は、従業員のリモートワークだろう。屋内退避令発令時はともかく、解除された後もリモートワークを承認している企業は多い。リモートワークの活用により、企業は所在地に関係なく従業員を雇用することができ、従業員は他の州へ引っ越しても勤務し続けることができるようになった。今回は企業が従業員のリモートワークを継続するにあたり、法的に注意しなければいけない点について考えてみよう。

概要

従業員が他の州からリモートワークをしている場合、企業はその州の規定に基づいて「ネクサス」があるかどうかを判断し、もしネクサスがあると見なされた場合には、企業はその州の諸規定に従わなければならない。「ネクサス」はそれぞれの州の法律で定義されているが、一般的には、その州に物理的、経済的な拠点やそれ相当の接点があることを指す。例えば、複数の州では、企業の所在地は別の州にあってもその州で働く従業員がいればネクサスがあると規定している。コロナ禍では、多くの州がネクサスに関して臨時的に緩い対応をしていたが、現在は本来の規定の施行に戻りつつある。よって、他州でリモートワークをする従業員が一人でもいる場合には、その州の州法や税法を遵守する義務が発生する。以下に、企業が考慮すべき主なコンプライアンス事項を挙げるので参考にしていただきたい。

州外法人登録（支店登録）

従業員がリモートワークをしている州の規定下で「ビジネスを行っている」と見なされる場合には、その従業員がいる州で州外法人としての登録（支店登録）をして、その州で事業を行う許可を得ることが必要となる。

雇用法の遵守

リモートワークをしている従業員は、業務を行っている州の雇用法が適用される。加えて、同じ州内でも市ごとに規定が異なる。企業はその従業員のいる州と市の休暇規定（病気休暇、休暇、その他の休暇）、賃金および労働時間に関する法律、プライバシー法、州および地方の掲示要件などを遵守する必要がある。また、Exempt、Non-Exempt、Independent Contractor（独立請負人）の定義も州によって異なることがあるので確認する必要がある。

給与の支払いおよびその他の源泉徴収義務

リモート従業員に対する給与における州の源泉税についても、従業員が労働している州の所得税・給与税を徴収するのか、企業の所在地の州の所得税・給与税を徴収するのかを確認する。

その他の税務上の影響

他州にリモート従業員がいる場合には、給与税に加えて、その州の法人所得税、フランチャイズ税、売上税・使用税の申告納税義務の対象となる場合がある。リモート従業員がいる企業は、適切な税務コンプライアンスのために公認会計士に相談することを勧める。

労災保険と福利厚生

企業は通常、従業員の勤務地の州の労災保険を適用しなければならない。リモート従業員の場合には、その業務を行っている州が対象となるため、企業は、保険ブローカーに相談して、従業員がいるすべての州で保険が適用されるようにしなければならない。さらに、健康保険のような会社が提供している福利厚生があれば、現在のポリシーを更新するか、リモート従業員を対象とする新しいポリシーを策定すべきである。

その他の考慮事項

上記の事項に加え、自宅で働く従業員が負担した費用（インターネット料金、ソフトウェア、オフィス家具および備品など）は、企業が従業員に払い戻しをするよう義務付けている州もある。

考察

適切なコンプライアンスのための最初のステップは、現状を把握するために、リモートで勤務している従業員を調査することである。従業員の所在地を確認した後、企業は顧問弁護士や顧問会計士に相談の上、明確なポリシーを導入することによってリスクを抑えることができる。

ここで扱う内容は、一般的事実であり、特定の状況に対する法的アドバイスではなくそれを意図したものでもない。

Yorozu Law Groupは、サンフランシスコに拠点を置く国際法律事務所で、企業法務、国際税務、M&A/戦略的提携、ライセンシング、国際商取引、雇用法において日本語と英語で法務サービスを提供している。© Yorozu Law Group

略歴

萬（よろず）タシャ

Yorozu Law Group 代表弁護士

オレゴン州生まれの関西育ち。カリフォルニア州・オレゴン州弁護士、MBA取得。米国で20年以上の弁護士経験を有し、日系企業の外部顧問を多数務める。現在、北加日本商工会議所会頭、米日カウンシル常任理事兼書記役、ジェトロ SF 中小企業海外展開現地支援プラットフォームの法務コーディネーターを務めている。日英に堪能。

企業概況ニュース・U.S. JAPAN PUBLICATION N.Y. INC.・https://ujpdb.com/

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