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~脱税とFBAR申告~

米国市民、米国居住者及び米国法人等を含む「United States person(US person)」は、米国外において1万ドルを超える金融資産を有している場合、米国政府に毎年、資産の残高を申告しなければならないが(Report of Foreign Bank and Financial Accounts、「FBAR」と言う)、そのFBARの申告期限が6月30日に迫っている。今年からは電子申告が義務付けられているのみならず、近年、米国政府はFBAR申告を怠った者に対して民事的・刑事的制裁を科す動きを強めているため、米国在住の日本人は注意が必要である。

<FBARの取締り強化>

FBARは、Bank Secrecy Act(銀行秘密法)に基づき、マネーロンダリング等の不正な金の流れを食い止める目的で設けられた。近年、米国の高額納税義務者がUnion Bank of Switzerland(UBS)等の隠し口座に資産をプールし、構造的・計画的に脱税を行っていたとことが明るみにでたため、FBARが脱税を防ぐ手段として社会的に注目を集めており、米国内国歳入庁(IRS)も申告違反に対する取締りをますます強化している。

【UBSの計画的脱税を巡る判例】

アリゾナ州の著名な事業家、Kerr氏とQuiel氏は、カリフォルニア州弁護士、Rusch氏の協力の下、隠れ蓑として設立した外国法人の名義でUBSに隠し口座を設立した。Kerr氏とQuiel氏は、米国内の株式取引で得た巨額の資金を同口座にプールして脱税し、2007年と2008年に虚偽の税務申告を行ったとされ昨年4月有罪判決を受けていたが、今年に入って各々罰金及び禁錮刑10ヶ月の判決を受けた。両氏の脱税を支援した罪を認めたRusch氏も同様に罰金及び10ヶ月の禁錮刑を言い渡された。

米国司法省は、UBSが構造的、継続的に「US person」の脱税の手助けをしていたとして刑事責任を追及した。UBS側は、罪を認めて起訴猶予の和解に応じ、7億8千万ドル(およそ796億円)の罰金その他の支払いに応じることに合意した。

このように脱税目的で故意にFBAR申告を避けているケース以外にも、IRSは、一般人に対して取締りを強化しているので気を付けたい。

<FBARの申告義務者>

FBARの申告義務を負うのは、(1)「US person」が、米国外に所在する「Financial Account(金融口座)」に対して経済的利益又は「Signature Authority(署名権限)」を有しており、(2)暦年(1月1日から12月31日まで)のいずれかの時点ですべての金融口座の最高残高合計が1万ドルを超えた場合である。「US person」とは、米国市民及び米国居住者(永住権保持者又は一部例外を除く短期滞在者等)、米国法人(CorporationやLLC)、米国で設定された信託(Trust)や遺産信託(Estate)である。FBARの対象となる「Financial Account」は、主なものとして以下の金融資産があげられる。

• 銀行口座(普通預金口座、当座預金口座、定期預金等を含む)

• 証券や株式取引口座

• 先物取引などの投資口座

• 解約返戻金付き保険(生命保険等)

• 投資信託などの信託

特に留意して頂きたいのが、「Signature Authority(署名権限)」についてである。たとえ自分が口座名義人でなくても、会社のCEOCFO等として会社名義の米国外の金融口座(例えば日本の銀行口座)の署名権限を有している場合、当該CEOCFOは、個人名義の口座のみならず会社名義の口座も個人のFBAR申告に含めなければならない。従って当該口座は、会社のFBARにも、個人のFBARにも開示されることになる。さらに、高齢の両親から委任されて代理人となり銀行口座を管理しているような場合にも、署名権限があると看做される。従って、たとえ一度も代理権限を行使していなくともFBAR申告しなくてはならない。

<制裁>

FBARの申告を怠った者には、民事的及び刑事的制裁が科される。一番軽微な、過失による場合だと民事罰のみで罰金500ドルだが、故意に虚偽のFBAR申告を行った前述の判例のように違反の程度が甚だしい場合には民事罰として10万ドルか申告を怠った時点の口座の50パーセントのどちらか低い金額、そして刑事罰として最高5年の禁錮刑となる。

まだ一般的に浸透しているとは言い難いFBARの申告、うっかり忘れて思わぬ罰金を払うこととならない為にも、税理士、会計士などの専門家に相談し、遺漏のないように十分注意していただきたい。

本記事の内容は、一般的事実を述べているだけであり、特定の状況に対する法的アドバイスではなく、それを意図したものでもない。個々の状況に対しての法的アドバイスは、直接当事務所にご連絡頂くか、専門の弁護士にご相談されることをお勧めする。

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