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~日本の親会社は米国子会社の行為の責任を負うか?~

差別的な解雇を理由に米国人の元従業員が、元雇用主のみならずその親会社である日本法人をも被告として提起していた訴訟において、2014年6月27日、第2巡回区控訴裁判所は、大変興味深い判断を下した。証拠開示手続前の判断とは言え、日本の親会社と米国子会社との関係を考え直すのに、非常に良い事例であるためここに紹介しよう。

【裁判に至る経緯等】

日本法人であるA社は、米国に100%所有の子会社を設立した。

原告の元従業員は、米子会社で採用され同社の従業員となった。元従業員の所属部署には、現地採用の米国人3名と、親会社から赴任した日本人3名、計6名が勤務していた。2009年、元従業員を含む2名の米国人が人員整理で解雇され、もう1名の米国人は他部署に移動となった。その結果、同部署の従業員は日本人の3名のみとなった。そこで、元従業員は、米子会社及び日本親会社を被告として、当該解雇は、人種及び出身国による差別であるとする訴訟を提起した。

一審裁判所であるニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所は、日本親会社は元従業員の雇用主ではないと判断したが、元従業員はこれを不服とし控訴した。

【控訴審裁判所の判断内容】

控訴審裁判所は、日本親会社の果たした役割次第では、米子会社のみならず日本親会社も、元従業員の雇用主となり得ると判断した。その分析基準として、両社間における①業務上の相互関係(interrelation of operations)、②集中人事管理の有無(centralized control of labor relations)、③同一経営の有無(common management)、④同一所有権又は同一財務管理の有無(common ownership or financial control)を考察した上で、両社が「実質的に一つの統合された会社」 (single integrated enterprise) であると言えるか否かを判断する必要があるとした。この事実認定のため当該審理は一審裁判所に差し戻されたのである。

【考察】

本件判断において注目すべきは、株主である日本の親会社も、その子会社の経営責任を問われる可能性がある点だ。例え子会社の規模が小さくても、その事業運営、人事管理、経営、財務等において親会社への依存度が高く、親会社が子会社に逐一具体的な指示を出している場合は、親子両会社が「実質的に一つの統合された会社」と看做され、本来出資額までしか責任を負わない株主の有限責任が保証されず、子会社の行為の責任も負う可能性が出てくる。日本の会社が米国に100%子会社を設立した場合、親会社が子会社へ指示を出すのは、いわば当然であるという認識を持つ人が多いようだが、米国法人は、独立経営を行なう必要がある。米会社法においても、法人の最高経営意思決定機関は取締役会であり、各取締役は会社に対し信認義務(fiduciary duty)を負っている。そのため、子会社の取締役は、親会社の指示ではなく、子会社の最大限の利権を考慮して経営、人事、財務上の判断をしなければならない。日本の親会社の管理職が、米子会社の取締役や執行役員を兼任する例は良くあり、それ自体は法的に問題ないものの、子会社の取締役として行動する際には親会社の役職や立場で行なわず、子会社の利益を優先することが肝要である。

本記事の内容は、一般的事実を述べているだけであり、特定の状況に対する法的アドバイスではなく、それを意図したものでもない。個々の状況に対しての法的アドバイスは、直接当事務所にご連絡頂くか、専門の弁護士にご相談されることをお勧めする。

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