~17歳の求職者が最高裁でAbercrombie & Fitchを糾弾~
企業概況 発行日:
Jweekly 発行日:
2015年2月25日、米最高裁は、雇用上の宗教差別について、2008年当時17歳の求職者Samantha ElaufさんとAbercrombie & Fitchの口頭弁論を聞いた。イスラム教徒であるElaufさんは、頭部にヒジャブと呼ばれる黒いスカーフを着用して面接に参加したが、それが理由でAbercrombie & FitchはElauf さんを採用しなかったのである。
連邦法の公民権法第七章(Title VII of the Civil Rights Act of 1964)は、雇用主が人種、肌の色、宗教、性別、出身国を理由に差別的な雇用上の判断を行うことを違法としているのはご存知であろう。同法は、さらに正当な理由で会社の規程に従えない従業員に対して、会社は、過度の負担や被害を被らない限り、妥当な範囲で処遇改善措置を提供しなければならないとしている。それでは、ファッション業界の会社の服装規程と従業員(又は求職者)の信仰とが対立する場合、いかに解決すべきであろうか?
<判例>
Abercrombie & Fitch (以降「Abercrombie」)は、社内で「モデル」と呼んでいる店舗の販売員に対して会社の服装規程を守るよう指導していた。モデル達は、米国東海岸のアイビーリーグ大学のカジュアル・ファッションを基調とするAbercrombieのスタイルを守ることを求められ、更に、黒い衣服の着用と、帽子を含む頭部にまとう一切のものの着用を禁止していた。
2008年、当時17歳であったElaufさんは、Abercrombieの服装規程を知らずに、オクラホマ州にあるAbercrombieの子供服専門店での面接に応募した。敬虔なイスラム教の信者であるElaufさんは、Abercrombieのスタイルの服を着用し、頭部にはイスラム教の女性として保守的とされる黒いヒジャブをまとって面接に臨んだのである。面接官は、Elaufさんの経験やファッションセンスが会社の基準を満たしていると判断したものの、黒いヒジャブの着用は会社の規程に違反しているため採用しなかった。面接中にヒジャブについての質問はいずれの方からもなかった。
Elaufさんは、Abercrombieが彼女を採用しなかった理由はイスラム教徒に対する宗教に基づく差別だとして、EEOC(Equal Employment Opportunity Commission/連邦均等雇用機会委員会)に苦情申告を提出した。これを受けたEEOCは、Elaufさんを代弁し、Abercrombieを公民権法第七章違反で提訴した。第一審の陪審員は、Abercrombieが同社の服装規程に違反するヒジャブをまとったElaufさんに対し妥当な処遇改善措置を講じるべきであった、あるいはそれについて双方の対話を開始すべきであったとし、Elaufさんに対して$20,000の補償的損害賠償を認めた。
これを不服としたAbercrombieは、第10巡回区連邦控訴裁判所に控訴した。控訴裁判所の判事は、宗教上の妥当な処遇改善措置は、雇用主が憶測で行うのではなく求職者の方から明確に雇用主に対して要請しなければならないとし第一審の判決を覆したのである。(ちなみに、カリフォルニア州を含む第9巡回区連邦控訴裁判所の法的基準では、雇用主が従業員の状況を知っていた、あるいは知っているべき状況にあった場合、雇用主に処遇改善措置の責任があるとしている。)EEOCは、これを上告して今回の最高裁での審理に至ったのである。
最高裁の口頭弁論において、EEOCは、Abercrombieの面接官がElaufさんに対し宗教上の処遇改善措置が必要か否かをまず聞くべきであり、ヒジャブをまとっていただけの理由で採用しなかったのは、公民権法第七章違反であるとした。これに対し、Abercrombieは、Elaufさんが頭部にスカーフをまとっているからといってイスラム教徒だとは確定できないとし、実にスカーフをまとう人達すべてがイスラム教徒ではないと主張した。更に雇用上の処遇改善措置は、Elaufさん本人から、宗教上の理由でヒジャブをまとう必要があることを雇用主に申し出るべきであったと反論した。又、Abercrombieは、同社の宗教上中立な服装規程にElaufさんが違反していたため採用しなかっただけで、宗教差別を行った分けではないとしたのである。
これを受けて、最高裁Samuel Alito判事は、Abercrombieの弁護士に対して以下のような質問を投げかけた。「では、シーク教徒、ハシド派のユダヤ教徒、イスラム教徒、カトリック教の修道女が面接に出席した場合を想定してみよう。シーク教徒は頭にターバンを巻き、ユダヤ教徒は黒い帽子をかぶり、イスラム教徒はヒジャブをまとい、キリスト教の修道女はベールをまいて、Abercrombieの面接に参加したとしよう。貴方は、結局、これらの求職者たちが自ら「自分たちは宗教上の理由でこのような格好をしているのであり、ファッションではないのです」と面接官に明確に伝えなければならないと言っているのですか?」と質問した。
最終的な判決は、6月に予定されている。
本記事の内容は、一般的事実を述べているだけであり、特定の状況に対する法的アドバイスではなく、それを意図したものでもない。個々の状況に対しての法的アドバイスは、直接当事務所にご連絡頂くか、専門の弁護士にご相談されることをお勧めする。
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