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~米最高裁、Abercrombie & Fitchの採用手続きを非難~

皆さんは、今年の3月27日号に掲載した第41回目の記事、「17歳の求職者が最高裁でAbercrombie & Fitchを糾弾」を覚えておられるであろうか?2008年、Abercrombie の販売店員に面接応募した当時17歳の求職者Samantha Elaufさんが、不採用となった理由はイスラム教徒の黒いヒジャブと呼ばれるスカーフを着用していたためだと主張して、Abercrombie & Fitch(以降「Abercrombie」)を公民権法第7章違反として提訴した訴訟案件だ。第一審ではElaufさんが勝訴、第二審ではAbercrombieが勝訴したが、Elaufさんが上告した結果、去る6月1日、最高裁の審理が行われたのである。判事からの質問に両当事者の弁護人が答弁を行った結果、9人中、8人の判事がElaufさん側の論拠を支持し、同案件は、第二審に差し戻しされることとなった。

<公民権法第七章(Title VII of the Civil Rights Act of 1964)とは?>

連邦法である公民権法(Civil Rights Act of 1964)は、公共施設における人種分離政策が続く米国において、1963年、マーチン・ルーサー・キング牧師らの呼びかけによりワシントンDCに集まった20万人以上の参加者によるデモ行進が世論を動かした結果、翌年の1964年に米議会により可決された連邦法である。同法の第七章では、雇用主が人種、肌の色、宗教、性別、出身国を理由に、採用、解雇、昇給、処遇条件や昇進について差別的な扱いをすることを禁じている。更に、雇用主が人種、肌の色、宗教、性別、出身国を理由に従業員や求職者を区分する結果、彼らが雇用機会を逸したり雇用上の従業員としての利権に否定的な影響を及ぼすようなことを行ってはならないとされている。

同法で言う「宗教」とは、全ての既存宗教や宗教的行為を含むのみでなく、一般に宗教として認められていなくても宗教的信条も該当する。雇用主は、ビジネスを遂行する上で過度の負担を被らない限り、従業員又は求職者の宗教的行為を受け入れるために合理的な処遇改善措置を取らなければならない。合理的な処遇改善措置とは、従業員が自らの宗教を実践できるように、職務内容や職場環境を改善することを言う。合理的処遇改善措置の例は、柔軟性を持たせたスケジュールの組み方、職場変更、職場の規定や慣習の修正などがある。なお、雇用主は採用前の面接や採用後であっても継続してこの措置をとる必要がある。

<判例>

Abercrombie は、自社商品のスタイルに合わせた「ルックポリシー(Look Policy)」と呼ばれる社内規定を採用し、従業員に対し黒い衣服や帽子などの着用を禁止していた。イスラム教徒の黒いヒジャブを着用して面接に臨んだElaufさんはヒジャブの着用は宗教的理由からであると面接官に明確に述べてはいないものの、Abercrombieのマネージャーは、ヒジャブが同社のルックポリシーに反するとして採用しなかった。

第一審では、 Elaufさんを代弁したEEOC側が勝訴、Abercrombie は、Elaufさんの宗教的な慣習に対して処遇を改善しなかったとして$20,000の補償的損害賠償の支払いが命じられた。これを不服とするAbercrombie が第10巡回区連邦控訴裁判所に控訴した結果、宗教上の処遇改善措置を怠ったという責任は、求職者が採用者に対し明確に処遇改善を要請した場合のみであるとし、求職者の要請を認識していないAbercrombieの行為は違法とは言えない、と判断された。

しかし、最高裁はこの控訴裁判所の判断は法的に誤りだとし、求職者が処遇改善を必要としているか否かにかかわらず、公民権法第7章は宗教を理由に差別的な判断をすることを禁じているとしたのである。その結果、本案件は、第二審に差し戻されることとなり、今後の最終的な判決が待たれる。通常、最高裁の判決は5対4で別れるが、9人中8人の判事が合意した今回の判決は、異例と言って良いだろう。

Abercrombieは、これまで集団訴訟を含む複数の訴訟においてそのLook Policyの合法性が疑問視された結果、白人中心のイメージを脱してマイノリティーを採用し、宣伝広告においてもマイノリティーを起用することで様々な人種が応募しやすい措置をとることに合意している。

<考察>

雇用主は、例えビジネス上の理由であっても、採用している社内規定が違法な差別的結果を生んでいないかを常に確認するべきであり、判断がつかない場合は専門家に相談しながら慎重にすすめることが大切である。

本記事の内容は、一般的事実を述べているだけであり、特定の状況に対する法的アドバイスではなく、それを意図したものでもない。個々の状況に対しての法的アドバイスは、直接当事務所にご連絡頂くか、専門の弁護士にご相談されることをお勧めする。

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