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素材・部品サプライヤーの製造物責任

1970~90年代、ダウ・コーニング社の製造したシリコン製ブレスト・インプラントが、豊胸や再建手術を受けた患者に対し疾病を引き起こしたとして提訴された数々の製造物責任訴訟は、最終的に同社を倒産に追い込み、和解金総額は32億ドルにも及んだ。その後も、自動車、建材、食品、医薬品、化学製品、機械製品等、あらゆる業界で製造物責任訴訟は後を絶たない。このような製造物責任訴訟での消費者の矛先は、完成品メーカー(以下「メーカー」)のみならず、ディストリビューターや素材や部品を供給するサプライヤー(以下「サプライヤー」)に対しても向けられる。そこで、第1回リーガル塾では、サプライヤーの製造物責任に焦点を当てたい。

<製造物責任訴訟のリスク>

一般に、欠陥製品により何らかの被害を受けた消費者は、各州法に基づき、①厳格責任、②故意による不法行為責任、③過失による不法行為責任、④不実表示又は⑤保証違反等を理由に、メーカー等に対し製造物責任を追及できる。これらの訴訟は、冒頭の例のように会社の存続を危うくしかねない。

<コンポーネント・パーツ・ドクトリン>

では、サプライヤーは、メーカーと同様の製造物責任を負うのだろうか?この問題に関し、カリフォルニアの裁判所は、次のとおりコンポーネント・パーツ・ドクトリンという法理を採用し、サプライヤーの製造物責任の範囲を限定している。すなわち、サプライヤーは、①素材・部品自体の欠陥により被害が起きた場合、又は②サプライヤーが、その部品を完成品に統合する過程で設計に大きく関与し、その統合が欠陥の原因となり、その欠陥により被害が生じた場合に限り、責任を負う。これは、通常、サプライヤーは、完成品に至るまでの統合や設計、パッケージ上の表示警告等を管理する権限がないことから、製造物責任を負うべきではないという論理によるものである。カリフォルニア州だけでなく他州でも概ねこの法理が採用されている。

 上記法理を踏まえ、カリフォルニア州の患者がシリコン製ブレスト・インプラントの素材を提供したサプライヤーを相手取り提起した製造物責任訴訟で、第一審と控訴審は、素材のシリコンは汎用性があり、メーカーが更なる加工を行い完成品の適合性や安全性を判断できる立場であったため、サプライヤーは責任を負わない旨判示した(Artiglio v. General Electric Co., 1998)。本判例は、現在においても有効である。従って、サプライヤーが素材や部品を完成品に統合するための設計に関与する度合等によって法的リスクが高まるので注意したい。

 なお、医療機器業界においては、米国食品医薬品局(FDA)が管轄する各種法律及び1998年生体素材アクセス保証法等も存在する。

<契約上の責任にも留意>

 このようにサプライヤーが製造物責任を負う範囲は限定されているものの、メーカーとサプライヤーとの間の契約で、サプライヤーの補償責任を規定することもある。この場合、消費者から提訴されたメーカーが、サプライヤーに対して訴訟費用及び損害賠償を請求することがあるので留意されたい。

<リスク軽減対策>

 サプライヤーは、素材・部品そのものの安全性確保に努めることはもちろんのこと、仕様に合致するものを納品する、又開発や設計段階に必要以上に関与しない等のリスク軽減対策を図るべきである。更に、メーカーとの契約において、補償責任の範囲を限定する等の努力も必要である。

「リーガル塾:3分で学ぶ米国ビジネス法」™は、法律や判例を通して米国社会とビジネス法の理解を深めることを目的としている。ここで扱う内容は、一般的事実であり、特定の状況に対する法的アドバイスではなくそれを意図したものでもない。個々の状況に対する法的アドバイスについては、専門の弁護士にご相談されることをお勧めする。

企業概況ニュース・U.S. JAPAN PUBLICATION N.Y. INC.・https://ujpdb.com/

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