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米国ビジネスにおける仲裁条項 ~ 訴訟リスクヘッジのための特効薬~

米国メガバンクWells Fargoの従業員が、ノルマ達成のために顧客情報を不正流用し架空の口座を開設していたことが発覚した問題で、2016年11月、被害者である消費者らが、クラス・アクション(以下「集団訴訟」)を求めてユタ州の連邦裁判所に訴訟提起した(Mitchell et al v. Wells Fargo Bank et al)。これに対し、Wells Fargoは、顧客と交わした契約に含まれる「仲裁条項」を理由に訴訟ではなく仲裁による解決を求めている。昨今、同様の訴訟が相次いでいることから、今回はこの仲裁条項をめぐる問題に焦点を当てたい。

<仲裁とは何か>

仲裁(arbitration)とは、訴訟外で第三者である仲裁人の裁定により終局的に紛争解決を図る手段であり、当事者間の「仲裁により紛争解決を図る」旨の合意を要する。訴訟が、公開の法廷で裁判官(陪審員)が事実認定と法の解釈・適用を行い判決を下す手続きであるのに対し、仲裁は、当事者の選定した仲裁人が非公開で裁定を行う。当事者は仲裁人の裁定に拘束され、訴訟と異なり不服申立権を有しない。一般に仲裁は、訴訟と比較して、迅速に紛争を解決でき、コストが低く、自ら選定した仲裁人による柔軟な解決も期待できる等のメリットがあると言われている。

<米国企業にとって好都合な仲裁条項>

米国企業にとって、仲裁は、上記の一般的メリットに加え、米国特有の陪審による懲罰的賠償や集団訴訟等のリスクを回避できるのが最大のメリットである。さらに、非公開手続きの下で紛争解決を図ることができる点も好都合だ。

このような仲裁条項の有用性を裏付けたのが、2011年の連邦最高裁判例である。2011年に最高裁は、AT&Tの消費者が、同社が無料と称して携帯電話を提供しながら別途販売税を請求したことは虚偽広告等にあたるとして、仲裁条項の有効性を争い集団訴訟を求めた事件で、仲裁条項は有効である旨判断し、消費者の集団訴訟の申立てを退けたのである(AT&T Mobility LLC v. Concepcion et ux.)。この最高裁判決を契機として、多くの米国企業で、取引先企業のみならず、消費者又は従業員(以下「消費者ら」)との契約でも、当事者間の紛争は仲裁により解決し、かつ集団的苦情申立てを認めない旨の仲裁条項を積極的に採用する動きが広がった。

<消費者らの反発と判例の動向>

しかし、消費者らの立場からすると、このような仲裁条項は、公開法廷での集団訴訟による司法救済の道を閉ざし、秘密裏の個別手続きに持ち込むものであり、企業の法的責任が有耶無耶にされやすい等の問題がある。そのため、仲裁条項の広がりとともに、消費者らがその有効性を争う訴訟が相次ぎ、最高裁の判断が覆されるかが注目されていた。

しかし、2016年9月17日、第9巡回地区の連邦控訴裁判所は、Uberの元運転手らが同社を相手取り、バックグラウンドチェックにより不当解約されたとして、仲裁条項の有効性を争い集団訴訟を求める申立てを行った事件で、上記2011年の連邦最高裁と同様の立場を維持し、仲裁条項は有効である旨判断し、元運転手らの主張を退けた(Mohamed v. Uber Technologies)。

今後もトランプ新政権誕生の影響で司法判断が右傾化すると予想されることから、冒頭のWells Fargo事件を含む同様の訴訟で、仲裁条項を有効とする最高裁の立場はそのまま維持される見通しである。

<考察>

米国進出企業にとって、米国内の訴訟リスク回避のための“特効薬”として仲裁条項を活用することは一般的に有用である。特にサービス業やEコマース事業などのいわゆるB to Cビジネスや、個人向けにプラットフォームの提供を行うビジネスでは、集団訴訟のリスクが高いことから、仲裁条項を活用するメリットが大きいと言えよう。

本記事の内容は、一般的事実を述べているだけであり、特定の状況に対する法的アドバイスではなく、それを意図したものでもない。個々の状況に対しての法的アドバイスは、直接当事務所にご連絡頂くか、専門の弁護士にご相談されることをお勧めする。

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