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雇用契約上の仲裁条項 ~米最高裁の司法判断が与える影響~

2018年5月21日付のニューヨークタイムズ紙によると、米連邦最高裁判所は、同日、雇用主が労使間の契約において、仲裁手続きを強制し、クラスアクション訴訟(以下、「集団訴訟」)を禁止することは合法であると司法判断を下した。

この判決により、2011年の米最高裁の判例(AT&T Mobility v. Concepcion)で、既に消費者との契約において仲裁手続きを強制し、集団訴訟を禁止することが合法と認められた企業の権利を更に拡大する結果となった。

今回の判決は、第5巡回区、第7巡回区、第9巡回区の連邦控訴裁判所で争われた労使間の訴訟案件をまとめた形になり(Epic Systems Corporation v. Jacob Lewis)、昨年4月にトランプ大統領に指名されたニール・ゴーサッチ判事が、保守派の多数派意見(5対4)を代表して執筆し、リベラル派のルース・ベーダ―・ギンズバーグ判事が少数派意見を執筆した。

いずれの事件も労使間で締結した契約において、労使間の紛争解決の手段として訴訟手続きではなく仲裁手続きを強制するとともに、各労働者は他の労働者と集団で紛争解決を行ってはならないという内容となっている。しかしながら、労働者は、未払いの残業手当の支払い要求や団体交渉権を主張するなど、締結後に起きた労使間の問題を解決すべく提訴し、控訴裁判を経て、今回の最高裁の判決に至ったのである。提訴の理由として、仲裁手続きを強制され、集団訴訟を禁止されることは、適正な賃金支払いを規定する連邦労働基準法(Fair Labor Standards Act)や団体交渉権を保証する全米労働関係法(National Labor Relations Act)に違反するとした。

しかしながら、ゴーサッチ判事は、これまでの最高裁の判例を基に、仲裁手続きに合意する契約は、連邦仲裁法(Federal Arbitration Act)が適用されるべきであり、詐欺的行為などを想定した例外規定についても適用されないと主張した。また、全米労働関係法は、労働組合を組織し、団体で交渉する権利を保障するのみで、集団訴訟手続きを保証するものではなく、連邦仲裁法を無効にするものでもないとした。更に、連邦仲裁法を立法した米議会の意図は、正に簡素でコストのかからない紛争解決手段を広めるためであると主張した。

これに対し、ギンズバーグ判事は、多数派の意見は誤りであり言語道断であるとした上で、これまで立場の弱い労働者の権利を保護するために立法・施行された連邦法や州法の執行を怠るものだとして強く批判した。

最高裁判決に至る過程で、オバマ政権とトランプ政権の確執も見られた。労働関係各法の執行を監督する独立行政機関である、全米労働関係委員会は、オバマ政権下において労働者を支援する意見を表明していたが、トランプ政権に交代した後に雇用者側を支援する形となった。

今回の判決は、右寄りに傾きつつある米最高裁の予想されたものと読む筋もあるが、労働者の権利の縮小を危惧する意見もある。

<考察>

専門家の間では、これまでの最高裁の判例の流れから、既に仲裁手続きが広く浸透し始めているため、それほどの影響はないと見る人もいるが、今回の判例が今後の法的環境にどのように影響を与えるのか注目したい。

ここで扱う内容は、一般的事実であり、特定の状況に対する法的アドバイスではなくそれを意図したものでもない。

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