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人材採用における競合間の非競争の合意 ~連邦反トラスト法の適用範囲~

2007年に始まった世界金融危機は米国の労働市場に大打撃を与え、その直前まで5%に抑えられていた米国失業率は、2009年に10%に急上昇した。しかし、オバマ政権下で開始された金融政策により労働市場は順調に回復を始め、11年を経過した現在、失業率は3.9%を記録している。更にトランプ政権による税制改革も手伝い、ダウ平均株価は、昨年末に25,000を超える記録的なレベルを達成した。しかしながら、労働者の賃金上昇率がそれほど回復していないのも事実である。本来、自由市場下における商品の選択肢や価格と同様、労働者の賃金も需要と供給のバランスで自ずと決まるべきであるが、これを抑制しようとする競合企業間の違法な動きがあるのも否めない。本号では、連邦反トラスト法に抵触した雇用主の例を紹介しよう。

<連邦反トラスト法>

健全な市場競争は、商品やサービスの選択肢や価格競争、技術革新など消費者に恩恵をもたらし、経済が成長するための原動力となる。よって、自由かつ開かれた市場を確保し、健全な経済活動を保証するために、1890年に米国議会は、「シャーマン法(Sherman Antitrust Act of 1890)」と呼ばれる連邦反トラスト法を立法した。同法は、健全な市場競争を阻む不当な影響から公衆を保護することを目的とし、不当な談合や価格協定など、競合間で明示的にあるいは暗示的に競争しないことに合意することは、違法行為とされる。同法の執行は、連邦司法省及び連邦取引委員会(FTC)が担当している。

雇用面においては、同様な経歴を持つ人材を求める競合企業間において、自社の雇用条件を他社に開示したり、お互いの従業員を勧誘しないなどの公式・非公式の合意を行うことは、シャーマン法を違反することになる。特に、お互いの従業員を採用しないことを書面で合意するなど、明らかな違法行為については、連邦司法省が、関係会社のみではなく人事担当者など個人に対しても刑事罰を問う可能性があるため、十分な注意が必要である。例え刑事罰を問われなくても、直接的被害を被った従業員等から、民事訴訟が提起される可能性も十分あり得る。

<シリコンバレーの違法行為>

2010年、シリコンバレーの大手、Google、Apple、Intel、Adobeを相手取り、お互いのエンジニアを採用しないとの違法な合意を行ったとして、6万4千人を超える従業員が集団訴訟を提訴した。当該訴訟は、2014年に総額3億2千4百万ドルで和解手続きが進んでいたものの、連邦地方裁判所サンノゼ地区のLucy Koh判事が、和解金が低すぎるとして却下した後、2015年に総額4億15百万ドルの和解金による和解手続きを認めたという経緯がある。

<考察>

人事の担当者や管理職は、シャーマン法の規定を熟知し、競合他社とのコミュニケーションにおいて、自社の採用ポリシーや採用条件の開示せず、給与額を一定範囲に抑えるなどの合意やお互いの従業員を勧誘/採用しないなどの合意は避けることが必要である。例え明示的な書面による合意がなくても、暗示的な合意を示唆するコミュニケ―ションが存在する場合、連邦司法省や州の担当局が提訴する可能性があるため、十分な注意が必要である。従って、専門の弁護士のアドバイスの下、適正な採用手続きを行うことをお勧めする。

ここで扱う内容は、一般的事実であり、特定の状況に対する法的アドバイスではなくそれを意図したものでもない。

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