2020年の東京オリンピックとパラリンピック開催に向けて、東京都は障碍者用のアクセス改善に努力を注いでいる。米国内でも公共施設や公共交通機関等では、障碍者のためのアクセスが完備されてきている。ところがここ数年は、eコマース・サイトの障碍者への配慮が足りないとする訴訟が急増している。今年1月3日にも歌手ビヨンセが代表を務めるパークウッド・エンタテインメントが、視覚障碍者と健常者の間に不平等があるとして訴えられた。今回は、ウェブサイトのアクセスについて2016年に提訴され、現在控訴手続き中の事件を紹介しよう。

＜Robles v. Domino’s Pizza LLC＞

2016年、視覚障碍を持つ原告のGuillermo Robles氏は、Domino’s Pizza, LLC（以下「Domino’s Pizza」）が運営するウェブサイト（www.dominos.com）及びモバイル・アプリを通して、ピザを注文しようとしたが、視覚障碍者用の画面読み上げソフトに対応しておらず、注文を完了することができなかったとして、Domino’s Pizzaを相手取り、米国障碍者法（Americans with Disabilities Act of 1990）（以下「ADA」）違反を理由に、カリフォルニア中央地区、米国連邦地方裁判所にて提訴した。争点は、ADAが実際に存在する店舗のみではなく、eコマースにも適用されるか否かにあった。2017年3月20日、同裁判所のS. James Otero判事は、被告側の主張を支持する司法判断を下し、これを受けた原告は、第9巡回区米国連邦控訴裁判所へ控訴手続きを開始した。

＜ADAとは＞

前述の通り、ADAとはAmericans with Disabilities Act の略で、障碍を持つ個人に対する差別を排除する目的で、国レベルの明確かつ包括的な規定を採択するために、当時のGeorge H. W. Bush大統領の署名を得て1990年に成立した。ADAの第3章は、「いずれの個人も、いかなる公共施設が提供する商品、サービス、施設、特権や設備を完全かつ平等に利用する上で、障碍を理由に差別されてはならない」とある。

ちなみに、カリフォルニア州法下においても、アンルゥ市民権法（Unruh Civil Rights Act）が障碍者への差別的待遇を禁止している。

しかしながら、インターネットが一般に普及する前に立法されたADAが、実際にeコマースに適用されるか否かについて、全米の裁判所の意見が分かれているのが実情だ。つまり、ADAは物理的に存在する店舗のみに適用されるため、実際の店舗を持っているeコマースのみが対象となると狭義に解釈した判例がある反面、実際の店舗を持たなくてもeコマースを運営している限りADAの適用を受けると広義に解釈した判例も存在する。

＜判決＞

被告側の主張によれば、Domino’s Pizzaのウェブサイトやモバイル・アプリは、公共施設（public accommodation）ではないため、ADAの適用を受けないと主張する。

更に、米国連邦司法省は、これまでeコマースがADAの適用を受けるとの意見を幾度となく発表して来たにもかかわらず、現時点において未だに最終的な規定について公式判断を発表していない。仮にADAが適用されるとしても、国際的第三者機関である、World Wide Web Consortiumが開発したWeb Content Accessibility Guidelines 2.0（以下「WCAG」）のレベルAA又はレベルAＡAを遵守するよう指示を発表しているだけであり、司法省自体が公式なガイドラインを採択している訳ではない。よって、被告側は、当該訴訟が法の適正な過程を欠くため、司法省の最終的な規定が公式に発表されるまで、本件は却下されるべきであるとした。

Otero判事は、まず、ADAの適用性について被告側の主張を退けつつも、連邦司法省の最終的な法規定に関する公式発表が無いことを重要視し、最終的に原告の主張を却下した。

＜考察＞

当該訴訟は、2018年10月12日に第9巡回区連邦控訴裁判所で審理が開始され、最終的な判決は、今年中に期待されているものの、これまでのADA訴訟の多くは、和解手続きによって解決されている。一般消費者を対象とするeコマースが訴訟リスクを下げるためには、可能な限りWCAGの遵守を行うことが大切である。

ここで扱う内容は、一般的事実であり、特定の状況に対する法的アドバイスではなくそれを意図したものでもない。

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