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州外法人に課される州所得税の「ネクサス」と申告義務について ~Wayfair売上税判決の及ぼす影響~

法人所得税と売上税は別物

前回は、米国連邦最高裁判所が去年6月に下したWayfair判決によって、売り上げが発生した州(購入者がいる州)に企業(業者、販売者)の「物理的ネクサス」が実在しなくても、「経済的、バーチャル的ネクサス」があれば、「それ相当のネクサス」があるとみなされ、その州は企業に対して売上税を徴収し納税する義務を課すことができるようになったことを紹介した。

Wayfairの判決は、売上税の為の「ネクサス」の分析に限定されている。勿論、売上税と法人所得税は税金の種類が別であり、州によっては管轄当局も異なり、課税基準を判断するためのネクサスの要素や分析方法も違う。例えば、州外法人に売上税の徴収・納税義務が発生しても、自動的にその州の法人所得税の申告義務が発生するとは限らない。しかし、Wayfairの判決により、州政府が、州外法人の法人所得税申告義務を判断するための「ネクサス」も今まで以上に凝視する可能性はある。よって、今回は、州法人所得税の申告義務に係るネクサスの概要を説明する。

法人所得税課税のための「ネクサス」

州政府は、会社法や税法に基づいて、企業が州内で「事業活動(doing business)」を行っている場合は、ネクサスがあるとみなして、法人所得税の申告義務を課すことができる。典型的なdoing businessの例としては、企業がその州で法人登記または支店登録をする、オフィスを構える、資産(棚卸や固定資産)を保有する、従業員を雇用するなどの物理的実態のある事業活動が挙げられる。更に、サウスカロライナ州最高裁判所は、Wayfairの判決が下された15年も前の1993年に、州内に物理的ネクサスが実在しなくても、州外法人に対して法人所得税の申告義務を課すことができるという判決をGeoffrey, Inc. v. South Carolina Tax Comm’nで下している。

このGeoffrey判決後の2005年頃から、Factor Presence Nexus Standardsを設定する規定を導入し、州外法人にも法人所得税の申告義務を課す州が増加している。同規定では、州内における「売上収益」が50万ドル、「固定資産」が5万ドル、或いは「人件費」が5万ドル等(州によって金額は異なる)、一定の基準を超過すれば、法人所得税の申告義務が発生するのが一般的だ。

近年では、州税務当局が州外法人の税務調査を実施する際に、上記の「売上収益」要素を重視する傾向にあるようだ。従って、売上税と法人所得税は別であっても、切り離せない関係になってしまっていることは確かだ。

州の法人所得税課税権にかかる制約

しかし、もし州外法人による州内での活動が、「有形物品を販売するための勧誘(solicitation)的な活動に限られている」場合は、ネクサスがあっても、その州は州外法人に法人所得税の申告義務を課すことができないという例外規定が、連邦公法(Public Law:PL)86-272にあるので注意が必要となる。

日米租税条約について一言

米国に恒久的施設を持たない日本企業は、日米租税条約に基づいて、米国連邦法人所得税の申告義務が免除される。しかし、国家間での条約は、州に及ばないこともあるため注意されたい。

考察

 Wayfairの判決が、州法人所得税に及ぼす影響は過小視できない。Wayfair判決に促され、より多くの州が州外法人に対して、「doing business」や「ネクサス」を更に広義に解釈する法案、規定や基準を取り入れることになるだろう。従って、米子会社や支店を設けている日本企業のみならず、アメリカに物理的拠点がない日本企業であっても、どの州から売上が発生しているか、その州に対して法人所得税申告書の提出義務があるか、またPL 86-272の保護を受けられるか否かなどを確認することをお勧めする。

ここで扱う内容は、一般的事実であり、特定の状況に対する法的アドバイスではなくそれを意図したものでもない。

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