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女性取締役の選任を義務付ける新法~憲法違反の主張で提訴~

以前取り上げた、女性取締役選任を義務付ける州法により、カリフォルニア州は全米で初めて義務化を決定し、米国も取締役会の多様化のための第一歩を踏み出したところだが、同法に反対する者が憲法違反であると主張し、裁判所に訴えを提起したところであり、再び議論が活発になっている。

法律の概要

ここで、改めて法律の概要を説明しておこう。2018年9月にカリフォルニア州議会は、米国市場で上場している州内の企業に女性取締役の選任を義務付ける州法826(以下「SB-826」という。)を可決した。この法律はカリフォルニア州会社法第301.3条と2115.5条として導入され、主たる事業所(principal executive office)がカリフォルニア州にあれば適用を受ける。同法によると、まず2019年末までに1名以上の女性取締役を置くことが適用企業に義務付けられ、その後2021年末までには、取締役総数が5名の企業では女性取締役2名以上の選任、取締役総数が6名以上の企業では女性取締役3名以上の選任が義務付けられる。(なお、ここでの「女性」とは、当人が認識している自身のジェンダーであり生物学的な性別ではない。)また、違反企業には、初回で10万ドル、2回目以降は30万ドルの罰金が科せられる。カリフォルニア州議会議事運営委員会は、カリフォルニア州内の上場企業約761社がこの新法の対象になると記述している。

原告の憲法違反の主張についての概要

2019年8月9日、Judicial Watch (政府、政治、法律の透明性、説明責任、インテグリティを推進する、保守系の団体)は、 納税者を代理してSB-826の運用にかかわる違法な支出等の差し止めを求める訴えを提起した。原告の主張の概要は次の通りである。会社の取締役に女性を置くことを求める法的なクオータ(割当て)制は、性に基づく区別であることから、憲法違反かどうかを審査するにあたっては、厳格な審査基準(strict scrutiny review)が用いられる。この厳格な審査基準においては、SB-826が重要な政府目的を実現するものでなければならず、かつ、区別が立法目的に実質的に関連していなければならない。被告(州)は、SB-826における法的なクオータ制の正当性を立証できないため、同法は憲法違反である、というものである。

考察

この訴訟の帰趨は注視すべきではあるものの、訴訟の結果いかんにかかわらず、女性取締役の選任については、企業価値向上の観点からも検討を進めるべきである。例えば、マッキンゼーの調査によると、経営陣の女性比率が全体の上位3分の1に入る企業の平均投資利益率が22%であるのに対し、女性比率がそれよりも低い企業では、15%であるとのことである。

一方、日本では、政府がコーポレート・ガバナンスの強化を成長戦略に位置付け、女性役員の登用を推進してきたところである。2018年6月1日に、東京証券取引所が公表した、「コーポレートガバナンス・コード」の改訂では、原則4‐11(取締役会・監査役会の実効性確保のための前提基準)において、「取締役会は、その役割・責務を実効的に果たすための知識・経験・能力を全体としてバランス良く備え、『ジェンダーや国際性の面を含む』多様性と適正規模を両立させる形で構築されるべきである。」とされ、改訂により、『ジェンダーや国際性の面を含む』の部分が追記されたことは記憶が新しいところである。上場企業は女性取締役の選任について、コンプライス(遵守)するか、エクスプレイン(説明)するか、が求められている。

女性取締役を始めとして、多様な視点・価値観を受容することにより、イノベーションが推進され、その結果、企業競争力や社会的評価が向上し、企業価値が向上することに繋がる。その一方で、課題として認識されている事項としては、ダイバーシティ経営に対する理解の推進、幅広い人材プールの構築、候補者の人材育成などが挙げられる。これらの課題の一つ一つについて、国、経済団体、各企業がそれぞれ連携して、取組みを進めることが更なる前進のために重要であろう。

ここで扱う内容は、一般的事実であり、特定の状況に対する法的アドバイスではなくそれを意図したものでもない。

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