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商取引のリスクを抑えるエスクローとは ~M&Aにおけるエスクローを利用する際の豆知識~

アメリカで個人住宅や商業用不動産の売買経験がある人の多くは、エスクロー・サービスを利用したことだろう。「エスクロー」は不動産売買だけでなく、企業買収・合併・出資(以下「M&A」)や、その他の商取引においても利用されている。今回は、最近の米国市場で活発なM&Aに焦点を当てて、ビジネスリスクを抑えるために用いられるエスクローについて説明しよう。

<エスクロー制度の歴史的背景>

1930年代の大不況時代に、個人住宅の固定資産税の支払いが滞り、最終的に自宅を差し押さえられて取り立てられる事態が続出していた。固定資産税は全額を一括で納める義務があり、これができず危機的な状況に陥っていたアメリカ国民の救済措置として、エスクロー制度が連邦と州レベルで法律化された。この新しい制度により、住宅所有者は、固定資産税の1/12を「エスクロー・エージェント」と呼ばれる第三者が管理する「エスクロー口座」に毎月振り込むことで、期日内の納税が可能となった。1940年代からは、カリフォルニア州で不動産取引の決済保全制度としてエスクローが普及し、現在ではあらゆる商取引にも幅広く用いられている。

<エスクローの仕組み>

エスクローとは、一般的に売買取引の際に、第三者を仲介して売買資金や重要文書を買手に引き渡す手続きである。「第三者寄託(または預託)」と訳されているエスクローの役割は、取引の安全性、確実性そして透明性を確保することにある。

M&Aにおけるエスクローは、既にM&A契約を締結した当事者の合意に基づいて、エスクロー・エージェントに資金、株式、証券、捺印証書やその他の重要文書を預託し、エスクロー契約で当事者が定めた条件が成立すると、預託物が相手に引き渡され、エスクローが終了する仕組みとなっている。エスクロー・エージェント(通常は金融機関)は、金融法で定義されているエスクロー規定に基づいた許認可を取得している。

<エスクローとリスク緩和>

多くの日本企業がグローバル展開を図る中、米国の企業をターゲットとするM&Aが増加している。かつてエスクローは、大規模なM&Aだけに利用されてきたが、最近では、中型案件にも用いられているようだ。

エスクローの役割のひとつは、売手によるM&Aの契約書内の表明保証条項違反に備えて、売手が譲渡代金の一定金額を一定期間、エスクロー口座に預託して買手に損失リスクを負わせないことである。売手に補償義務があることが確定すれば、当該保証責任に対する金額は買手に払い出され、それ以外の金銭や重要文書については、一定期間後に譲渡代金の残高として売手に払い出される。

エスクローは、前述の表明保証条項の違反に供う補償責任を果たす他にも、様々なM&Aの契約条件についても利用できるので、売手、買手それぞれの損失リスクを下げる有効な手段と言える。例えばM&A契約書内に、契約を白紙に戻すための解約金条項、価格調整条項、売手の幹部やキー・パーソンズの確保条項や、連邦・州当局の許認可や承認条項等が含まれている場合は、エスクローを利用するメリットがあるといわれている。

<考察>

アメリカでは、M&A契約書締結日から資金の全額、または一部が支払われるまでの期間においてエスクロー・サービスを利用することによって、両当事者の不安要素を軽減し、取引の円滑化を図ることができると言われている。エスクロー・サービスを提供する業者は多いが、米国の日系銀行によるエスクロー・サービスは、日本語で丁寧に説明が受けられるので心強い。もし、エスクローを利用する場合は、どのような条件をエスクロー契約に組み込むか等、弁護士に相談されることを勧める。

ここで扱う内容は、一般的事実であり、特定の状況に対する法的アドバイスではなくそれを意図したものでもない。

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