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採用者検討段階における人材紹介会社の責任 ~米国連邦裁判所の判決~

最近は日本でも、職場での性差別問題が重要視されており、ジェンハラ(ジェンダー・ハラスメント)、モラハラ(モラル・ハラスメント)、パワハラ(パワー・ハラスメント)などの言葉がメディアで表面化している。特に米国では、2017年の「#Me Too」運動をきっかけに、職場における採用者検討、昇進、解雇手続きなどにおいて性差別的な要素がないかを慎重に見直す傾向にある。今回は、雇用主が採用者検討段階において女性を外したことに対して、人材紹介会社の法的責任が問われた裁判例をご紹介しよう。

<Simplicean v. SSI (US), Inc.>

2018年8月、原告のIleana Simpliceanさん(女性)は、エグゼクティブ人材紹介会社であるSSI(US)Inc.(以下、SSI社)からのリクルートを通して、ビステオン社(フォード・モーター会社からのスピンオフ会社)の社内法務部長(ジェネラル・カウンセル)のポジションに応募した。SSI社は面接によって3人の候補者を選びその3名をビステオン社に紹介したが、ビステオン社のシニア・マネージャーはその3名の中の男性2名を主力候補、唯一の女性候補者であった原告を補佐候補とみなし、原告を除外して最終の面接を行うことを決定した。原告は、除外されたのは性差別行為であるとしてSSI社と同社の担当リクルーター個人2名を訴えた。

ここで原告が主張したのは、SSI社に以下の法的責任があるというものだ。

  • ビステオン社のエージェントとして原告を面接から除外し、不採用となるよう感化した。
  • 実際の雇用主ではないものの、人材紹介会社としての立場で性差別を行った。
  • ビステオン社と共同で性差別を幇助または教唆した。

<雇用差別禁止法>

職場における性差別はそれぞれの州の雇用差別禁止法によって規制されている。この雇用差別禁止法の基盤となっているのは1964年に制定された連邦法下の公民権法第VII編(Title VII of the Civil Rights Act of 1964)で、同法では人種、肌の色、性別、宗教などを理由とする差別を禁じている。人材紹介会社は実際の雇用主ではないが、雇用主の求人条件に合致した候補者の発掘や面接等、最終的に人材の紹介に至るまでのマッチング作業や手続きにおいて、同じようにこの雇用差別禁止法が適用される。

<判決>

2018年12月、米国連邦裁判所は原告の訴えを棄却し、SSI社とそのリクルーター個人には、ビステオン社が性差別行為によって女性の候補者を外したことに対する法的責任は無いという判決を下した。その理由は以下の3点である。

  • SSI社は、候補者を発掘し雇用主に紹介しただけで、雇用主の人事に関する決定権や採用決定をコントロールする権限はなかった。
  • SSI社は原告を候補者として選定し、最終候補の3名の中に入れて雇用主に紹介した事実があり、差別的行為を立証する事実関係はなかった。
  • 原告はビステオン社が彼女を最終リストから外したことに関して、SSI社がビステオン社と「故意かつ実質的に」共謀したことを証明できなかった。

<考察>

ビステオン社にはこれまで同役職に女性を採用したことがないという事実もあったのだが、Simpliceanさんが何故SSI社とビステオン社の両社を相手取って訴訟を起こさなかったかは不明である。また、ビステオン社が被告とならなかったため、同社がSimpliceanさんを最終リストから外した理由を裁判を通して得ることができなかった。従って、雇用主のビステオン社が、法的な責任を問われることなく訴訟が終了した比較的珍しい争訟といえる。

ここで扱う内容は、一般的事実であり、特定の状況に対する法的アドバイスではなくそれを意図したものでもない。

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